結婚や出産を機に生命保険や医療保険に加入した方がいいのかな、と考える方は多いと思います。
その中でも、若い方は『死亡保険はまだ早いと思うので、とりあえずは医療保険を検討してみよう』と考える方が多いです。
医療保険とは一体どういった保険なのか、よく分からないという方は是非参考にしてみてください。
そもそも医療保険とは何なのか、夫婦ともども加入している健康保険とどう違うのか、そんな悩みを解決します。
この記事を読んでいただくことで、医療保険に関する基礎知識が身につくとともに、実際に医療保険に加入するまでのステップをご理解いただけると思います。
公的医療保険とは
ひとくちに医療保険といっても、会社で加入している健康保険組合の保険や自営業の方々が加入している国民健康保険と、いわゆる生命保険会社が販売している医療保険は異なります。前者が、政府や企業等により運営され、すべての国民が加入することになっている公的医療保険、そして後者が民間の生命保険会社等が販売している任意の医療保険商品です。つまり、強制と任意の大きな違いがあります。
ここではまず、前者の公的医療保険について解説を加えていきたいと思います。
公的医療保険の概要
公的医療保険とは、皆さんが病気やけがで医療機関で受診した際に、医療費の一部を公的な機関に負担してもらえる制度です。日本では国民皆保険制度と呼ばれていて、すべての国民がこの公的医療保険に加入することになっています。皆さんがよく耳にする社会保険(医療保険、年金保険、雇用保険、労災保険、介護保険)制度の1つになります。
公的医療保険で受けられる保障
皆さんが病院・クリニックや歯科医院で受診した場合には、公的医療保険の2つの大きなメリットを享受できます。
まずは、実際にかかった医療費の全額を支払う必要はなく、最大でも3割のみの自己負担で済んでしまうというメリットです。
負担割合は所得と年齢により異なっていて、具体的な負担割合は以下の通りです。
- 70歳未満の方は3割。6歳(義務教育就学前)未満の子供は2割。
- 70歳から74歳までの方(※1)は、2割。 ただし、現役並みの所得のある方は3割。
- 75歳以上の方は、1割。 ただし、現役並みの所得のある方は、3割。
※1 平成26年4月以降70歳となる者が対象。
つまり、現役並みの所得のある方は年齢にかかわらず3割負担になっています。
2つ目のメリットは、1ケ月(歴月:1日から末日まで)にかかった医療費が高額になった場合に自己負担を少なくしてもらえるという高額療養費制度があることです。医療費の自己負担が過重なものとならないという大きなメリットがあります。
例えば70歳未満の人の場合、収入によって自己負担額は変わるものの、年収が約370万円から約770万円までの人であれば、
80,100円+(医療費総額-267,000円)×1%
を自己負担すればよいのです。
医療費総額が1,000,000円だと仮定しましょう。本来は3割負担ですから300,000円を負担するところですが
上式に当てはめて計算すると、
80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%
=80,100円+7,330円=87,430円
と計算でき、87,430円だけ負担すればよいのです。
一般的には、一旦3割負担分を支払っておいて、その後保険者に請求することによって2~3ヵ月後に差額が戻ってきます。
なお、あらかじめ「限度額適用認定証」を保険者から発行してもらって病院に提出しておくと、この例でいえば87,430円だけを窓口で払えばよいので、有効に活用してください。ただし、食事代(一般的には1食460円)のほか、自分が希望して入った個室代(差額ベッド代)は高額療養費の対象になりませんので注意が必要です。
2種類の公的医療保険
保険料の徴収をしたり保険金を支払ったりするところを保険者と言いますが、公的医療保険には保険者により加入対象の異なる健康保険と国民健康保険の2つがあります。勤務先が所属する健康保険団体が保険者になっているのが健康保険、一方でお住まいの市区町村が保険者になっているのが国民健康保険です。
会社員・公務員とその扶養家族は健康保険に加入し、その他の個人事業主や農業・漁業に従事している方、パートやアルバイトなどで職場の健康保険に加入していない方、無職の方などは国民健康保険に加入します。
二つの制度の共通点は、上記の自己負担割合および高額療養費制度という大きなメリットのほか、出産時の出産育児一時金として一児につき42万円を受給できるということです。それぞれの特徴は、以下の通りです。
健康保険
会社員・公務員などが加入する健康保険の保険料は、その人の給与水準によって決まり、本人と勤務先の労使折半で納めます。
扶養家族については、保険料は加算されずに一定の保障を受けられます。健康保険は、大きく3つに分かれます。
- 健康保険組合:主に大企業の従業員とその扶養家族が加入するものです。
- 協会けんぽ:全国健康保険協会での加入。独自の健康保険組合を持たない主に中小企業の従業員やその扶養家族が加入するものです。
- 共済組合:公務員や教職員とその扶養家族が加入するものです。
なお、健康保険の独自制度であり、国民健康保険にはないものとして、出産手当金(出産前42日と出産後56日の間、出産のため仕事を休業し、給与の支払いがない場合に支給される手当金)および傷病手当金(業務外の理由で、4日以上仕事に就けず、給与が支払われない場合に支給される手当金)の二つの手当金があります。
国民健康保険
個人事業主や農業・漁業に従事している方、パートやアルバイトなどで職場の健康保険に加入していない方、無職の方などの保険料は、世帯ごとに収入や資産、世帯人数等に応じて計算され、市区町村に納めます。保険料は一律ではなく、住んでいる地域によって異なります。
なお、このほか75歳以上になった方が、それまでの働き方等に関わらず加入する後期高齢者医療制度も公的医療保険に含まれます。
民間医療保険とは
民間医療保険とは、民間の生命保険会社等が販売している任意の医療保険商品のことをいいます。任意のためもちろん加入は自由ですが、加入の際にはたくさんの保険会社の異なる保障内容の保険商品を比較して、自分にあった医療保険を選択・加入するのが望ましいでしょう。そのため、合理的な意思決定が必要になります。
民間医療保険の概要
日本には大変充実した公的医療保険があることは見てきた通りですが、病気やけがによる入院や手術、そしてその間の通院等にかかる医療費のすべてがまかなわれる訳ではありません。そのため、民間の医療保険は、そのような公的医療保険ではまかないきれない費用負担をカバーする役目をもっています。もちろん、民間医療保険は加入年齢とともに支払う保険料は大きくなりますので、そのすべてを民間医療保険のみでリスクカバーすることは難しいかもしれません。その場合は、医療費の負担を貯蓄の取り崩し等で充当できれば問題はありません。
一方で、民間医療保険は健康状態の制約を受けるというデメリットを持ち合わせています。健康状態(直近の疾病や入院・加療等)によっては加入ができなかったり、特別条件という引き受けの不担保条件が付保されたり、ということもあり得ます。こうしたリスクの顕在化とコスト負担のバランスを考えることが民間医療保険の大切な役割です。
民間医療保険の必要性
民間医療保険の主な保障(主契約)は、大きな出費になる可能性がある入院や手術をしたときのための給付です。それでは実際にかかる医療費に対して、公的医療保険ではどの程度カバーされるのでしょうか?
1日当たりの自己負担額について
今まで見てきたとおり、日本では高額療養費制度が適用されれば、1ヵ月当たりの医療費がそれ程高くなることはないと言われていますが、本当でしょうか。先程の例で考えてみましょう。
例えば70歳未満の人の場合、収入によって自己負担額は変わるものの、年収が約370万円から約770万円までの人で、医療費総額が1,000,000円だと仮定すると
80,100円+(1,000,000円-267,000円)×1%
=80,100円+7,330円=87,430円
87,430円だけ負担すればよいというのが高額療養費制度の最大のメリットでした。
それならば、1日当たりの自己負担額は87,430円÷30日=約2,914円でいいのでしょうか。
ここで重要なのが、先述した食事代(一般的には1食460円)のほか、自分が希望して入った個室代(差額ベッド代)は高額療養費の対象にならない、という点です。
つまり、食事療養費:460円×3食=1,380円 と 差額ベッド代:約6,188円 (※2) は、少なくとも別途自己負担が生じる費用ということになります。
さらに、自己負担になる費用は他にも存在します。入院中に考慮しておかなければならない費用として、入院時の家族の生活費が考えられます。
入院した本人の被服費・クリーニング代のみならず、その間の家族の衣食住に関わる生活費および見舞時の交通費や外食費等です。特にがんを含む三大疾病や脚の骨折などの長期療養になるケースについては、多額になる可能性があることもシミュレーションしておきましょう。
以上より、2,914円+1,380円+6,188円+諸雑費=10,482円+諸雑費
を1日当たりの自己負担額として考慮しておく必要があります。
これらの費用は公的保険ではまかないきれないため、民間医療保険が登場するわけです。
※2 出所: 厚生労働省 平成30年11月「中央社会保険医療協議会 総会(第401回)主な選定療養に係る報告状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000400350.pdf
民間医療保険で受けられる保障
公的医療保険ではまかないきれない費用負担のうち、民間医療保険で受けられる保障とはどのようなものでしょうか。簡単にまとめてみたいと思います。
主契約での保障
入院したときの保障
病気やケガで入院したときには、入院給付金が支払われます。多くの商品は、
入院給付金=(入院日数)×(日額)
として入院給付金額を計算することになります。
入院給付金に関しては、注意すべき点があります。それは、支払限度日数(例えば60日、120日、360日)が決められている点です。例えば、60日タイプの医療保険に加入している場合、続けて70日間入院すると60日分の入院給付金しか給付されません。
そして、この日数の数え方にもルールがあります。退院してから180日以内に同じ病気や原因で2回目の入院をする場合、継続した入院とみなされるのです。例えば、30日間入院し、退院してから180日以内に同じ病気で40日間入院すると2度目の入院給付金は30日分しか保障されない場合が多いので注意が必要です。一方で、180日以上経過してから入院すれば40日分の入院給付金が出ます。180日以上経つと原因等にかかわらず新たな入院とみなされるからです。
最近は長期入院をさせてくれる病院は少なくなりましたので、60日タイプなど保障期間の短い保険のほうが合理的と思われますが、がんなどのように長期にわたって入退院を繰り返す病気になった場合には、ある程度の日数を保障してくれる保険のほうが安心できます。
最近では、入院日数に関係なく、入院時に一時金が支払われる「入院一時金特約」を付加できる保険会社が増えてきました。金額は入院日額の何倍というものや定額のものなど保険会社によって保障は様々です。例えば、2日間の入院をした場合でも10万円の入院一時金が支払われるというものです。
入院当初は検査など医療費が高額になりますので、(入院日数)×(日額)の給付金だけでは入院費を賄えないかもしれません。この特約があれば短い入院でも安心できます。
手術をしたときの保障
手術をした場合には、入院給付金とは別に手術給付金が支払われます。このうち、手術の種類によって手術給付金の額が変わる保障の保険会社と、種類を問わず一定の手術給付金が支払われる保障の保険会社があります。
最近は、胃ポリープや大腸ポリープなど外来で手術することも多くなりました。通院で手術をした場合と入院して手術をした場合とで給付金の額が違う商品もありますので注意しましょう。
なお、医療保険の手術給付金について詳しく説明を加えた以下の記事もご覧になってください。
特約での保障
通院したときの保障
この特約は通院したときの保障ですが、入院した後の通院に対しその日数分の通院給付金が支払われます。商品によっては入院前の通院も保障するタイプがあります。どちらも入院前○○日以内、退院後○○日以内の通院で通院回数についても○○回分などと制限があります。最近は、がんの通院のみを保障している保険商品もあります。
なお、医療保険の通院保障について詳しく説明を加えた以下の記事もご覧になってください。
先進医療を受けたときの保障
厚生労働省が定める先進医療を受けたときに給付金が受取れます。がん保険の先進医療特約はがんの治療に限られますが、医療保険に付加した場合はがん以外の治療でも保障されます。最近は、先進医療受診時の交通費や宿泊費を考慮した保険商品もあります。
なお、医療保険の先進医療特約について詳しく説明を加えた以下の記事もご覧になってください。
がんと診断されたときの保障
がん保険と同じようにがんと確定診断された場合に給付金が受取れます。
三大疾病(特定疾病)と診断されたときの保障
がんだけではなく脳卒中や急性心筋梗塞で所定の条件を満たした場合にも一時金等の給付金が受取れます。
三大疾病と診断されると以降の保険料を支払わなくてもよくなる「特定疾病保険料払込免除」という保障を付加できる商品もあります。
※上記保障の他、特約はさらに多彩になっています。
医療保険加入までの3ステップ
必要な保障を洗い出す
民間医療保険の主な保障(主契約)は、大きな出費になる可能性がある入院や手術をしたときの経済的負担をカバーするためといえます。そこで、民間医療保険にどこまでの保障内容を組み込めばいいのかを具体的に考えてみましょう。
ここでも、先述の【1日当たりの自己負担額】が目安になります。
2,914円+1,380円+6,188円+諸雑費=10,482円+諸雑費のうちどこまでを保障の対象にするか、という検討です。
以下、保障の手厚さによって3つのケースを示してみました。
ケース1
2,914円+1,380円=4,292円、つまり高額療養費制度をもとに算出した最低限の入院日額と食事療養費を合わせた額のみを民間医療保険で補うと考える。
入院給付金日額5,000円と手術給付金、および先進医療特約のみのシンプルな保障に加入。入院一時金も検討しても良いでしょう。
ケース2
上記ケース1に差額ベッド代を考慮して、入院給付金日額10,000円と手術給付金、および先進医療特約の保障に加入。その他、家系の病気状況を考慮してがん診断給付金や三大疾病一時金をプラスして検討。
ケース3
上記ケース2に加えて、入院後さらには入院前の通院を保障する通院給付金を盛り込んだ保障に加入。特定疾病払込免除特約も検討。
保険料を決める
皆さんの家計との相談により、毎月、無理なく支払っていける月払保険料を決めましょう。ご夫婦で加入されるのであれば、お二人合計の月払保険料の目安を決めてください。そうすると、あとは医療保険の保険期間と保険料払込期間、そして保障内容の要否を調整することにより適切な医療保険の加入が見えてきます。この場合、やはり複数の保険会社の保険商品を比較することにより、保障内容や保険料の多寡がよく分かります。ちなみに、私は終身医療保険で終身払、そして最近はやりの特定疾病払込免除特約を付加することをお奨め致しております。
なお、医療保険の保険料相場について詳しく説明を加えた以下も参照にしてみてください。
加入手続きをする
最近は、生命保険各社が医療保険商品の開発にしのぎを削っているため、とにかく複数の保険会社から情報を入手してみてください。その際、やはり複数の保険会社を取り扱う保険代理店を利用することは有効だと思います。加入検討時は急ぐことなく焦らずじっくりと情報収集してください。そして実際に加入する医療保険を決定したら、すぐに加入手続きの依頼をしましょう。
お誕生日を過ぎるとエイジアップしてしまい、保険料が高くなります。また、毎年の健康診断を受診してしまったら、検査結果が出るまで保険加入手続きが延期になることもありますので注意しましょう。一般的にがん診断給付金等においては、加入後90日間の免責期間があることも忘れずに覚えておきましょう。
最近は、クレジットカード支払いのできる保険会社が多いため、ポイントを貯めるクレジットカードを指定して加入手続きをすればお得になる場合があります。
なお、医療保険の見直しの場合には、新規医療保険の加入手続きが完了し、保険会社との契約締結が確認できてから、継続してきた古い医療保険を解約するようにしましょう。これは、無保険状態を回避するためです。
医療保険に関するQ&A
生命保険と医療保険の違いを簡潔に教えてください
生命保険とは医療保険はもちろん死亡保険や学資保険、年金など、生命保険会社が一般に扱っている商品全般をいいます。一方、医療保険は生命保険の中でも、病気やけがによる入院および手術等の保障に特化した保険です。つまり、医療保険では、万が一の場合の死亡保険金は支払われないのが一般的です。
社会保険と(民間)医療保険の違いを簡潔に教えてください
社会保険とは、その中に(公的)医療保険、年金保険、雇用保険、労災保険、(公的)介護保険という制度があり、その総称が社会保険制度と呼ばれている日本の公的な制度です。一方、一般的な(民間)医療保険は、民間の生命保険会社等が販売している任意の医療保険商品のことをいいます。
訪問看護にかかる費用を保障する介護保険と医療保険の違いは?
上記5‐2であげた社会保険の中にも(公的)医療保険と(公的)介護保険がありますが、同様に民間にも(民間)医療保険と(民間)介護保険があります。今回の医療保険と同様に、介護保険についても、公的介護保険を補完する目的で民間介護保険が存在します。詳細は、以下のリンクを参照にしてみてください。
まとめ
医療保険について、公的医療保険と民間医療保険の違いをみた上で、それぞれの保障の解説をしました。更には、公的医療保険の補完的役割を持つ民間医療保険について、具体的にどういった手順で加入を検討するのかという点まで解説を加えてきました。
私の長年の保険コンサルの経験上、医療保険の加入を検討する際には、必要な保障内容や保険料など決めなければならないことがたくさんあり、不安に思われる方が多いことは存じ上げています。その上、複数の保険会社の保険商品に関する情報が氾濫していて実際に比較するのはお手上げだという声も多数耳にします。
そういった方は、是非保険コンサルのプロであるFPに相談してみてください。問題解決の糸口がきっと見つかるでしょう。