医療保険の通院保障は本当に必要? おすすめできない3つの理由と代替案を解説

医療保険

公益財団法人 生命保険文化センターの令和4年度「生活保障に関する調査」によると、ケガや病気により健康を害することについて不安を感じている人の割合は88.5%に上ります。こうした不安を軽減するために多くの人が加入している医療保険ですが、通院保障特約と呼ばれる特約をつけることができることをご存知でしょうか?

参照:(公財)生命保険文化センター「2022(令和4)年度 生活保障に関する調査」
https://www.jili.or.jp/research/chousa/8944.html

ここではその医療保険に付加できる通院保障特約について、その保障内容はどのようなものなのか解説した後に、医療保険の通院保障特約がおすすめできない3つの理由について解説していきたいと思います。更に、医療保険の通院保障特約以外の選択肢についても詳しく見ていきましょう。

この記事を読んで頂くことによって、医療保険の通院保障特約がどのようなものなのか、そして本当に必要な保障はどのような保障なのかについて理解を深めていただけると思います。

医療保険の通院保障(特約)とは

医療保険の通院保障は通院しただけでは支払われない

一般的な医療保険は、病気・ケガによる入院保障と、手術を受けた際に給付される手術保障が主な保障内容です。通院保障はこうした医療保険に特約として付加することで保障を充実させるものです。

注意すべきポイントとして、多くの商品では病気やケガで通院するだけでは医療保険の通院保障の対象にはならず、入院を伴うことが前提条件とされているということが挙げられます。

前述のように多くの場合、病気やケガなどで入院し、退院後に病院へ通院した際に給付されるものが一般的ですが、最近は手術後の通院や入院前の通院も保障する保険も出てきていますので色々な商品をご検討されることをお勧めします。

医療保険の通院保障は通院日数に応じてもらえる

通院日数に応じて日額5,000円といったように、(通院日数)×(日額)の給付金が受け取れます。ただし、入院前60日以内・退院後180日以内など保障の対象期間が設定されており、対象期間中最高30日分を限度とするなどの日数制限もあります。

医療保険の通院保障でいくら支払われるのか?

医療保険の通院保障とは、具体的にはどんな保障内容になっているのか見ていきましょう。今回は2つのパターンについて見ていきたいと思います。

入院給付日額 5,000円
通院給付日額 5,000円
通院の保障対象 入院前60日、退院後120日の間で最高30日間を保障
入院給付日額 5,000円
通院給付日額 5,000円
通院の保障対象 がん以外の病気・ケガの場合:退院後180日の間で最高30日間を保障
がんの場合:退院後5年間で日数無制限の保障

どちらも入院することが給付対象となる前提条件ですが、①は退院後だけでなく入院前の通院も対象となります。②は退院後の通院のみ対象ですが、がん以外の病気・ケガは180日間、がんの場合は5年間と、対象期間が長くなっています。

このように各社特徴がありますので、日額や保険料だけで判断せず詳しい内容を必ず確認しましょう。

医療保険の通院保障の必要性を見極めるポイント

ここまで、医療保険の通院保障について簡潔に紹介してきました。通院保障特約は、様々な保険の特約としてつけることができます。前述の医療保険の通院保障特約もあれば、がん保険の通院保障特約も存在します。

では、そもそも通院保障は必要なのでしょうか?ここでは、一般的な通院保障の必要性について説明したいと思います。

通院前後の入院の実態

一昔前までは、一度入院すればすぐに退院させられるということは少なく、家に帰って療養するくらいなら冷暖房の効いた病院でゆっくり過ごしてから退院、ということが多くありました。

しかし近年では、社会保障負担を減らしたい国の思惑と医療技術の目覚ましい進歩により、入院日数は年々短くなり、退院後に通院もしくは医師が自宅まで往診するといったケースが増えています。

実際、入院期間が長期化しがちな精神病床と療養病床などを除いた一般病床の平均入院日数は、2002年は22.2日でしたが、2020年は16.5日と、14年間で5日間以上短くなっています。

参照:厚生労働省「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」 
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/20/

また、令和2年(2020)患者調査(確定数)の概況によると、年間の推計患者数は入院患者が121万1300人、外来患者が713万7500人となっており、圧倒的に外来患者数が多くなっています。

令和2年(2020)患者調査(確定数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/dl/kanjya-01.pdf

もちろん病気の種類や個々の症状によって異なりますが、総じて入院期間は短くなり、その後の通院で治療をおこなう流れになっていると言えます。

通院保障はいくら必要なのか?

通院時に支払う費用は、再診料・検査費・病理診断・薬代・交通費・・・など、多岐に渡ります。また、金額は病気によってかなり違いが出てきます。

通院治療にかかった費用全額とは言わず、足しになればよいということであれば、日額3,000円~5,000円あれば再診料と交通費は賄えるでしょう。

ただし、退院後の通院による治療費が高額になる病気もあります。代表的なものとしては、がん、そして糖尿病、腎臓病、高血圧などの生活習慣病、精神疾患などが挙げられます。いずれも検査費や特殊な治療、薬代等が高くなるケースが多いためです。

こうした病気に対して不安であれば、別途がん保険や生活習慣病の診断一時金、就業不能保険など、他の保険と組み合わせて備えていただくことをお勧めします。

通院保障が必要な人の特徴

通院保障が本当に必要かどうかは、どのように判断すれば良いのでしょう。
一般的に保険は家族構成と預貯金などの資産状況、そして勤務先の福利厚生や仕事内容などによって必要な保障内容が変わってきます。

まず、自分の労働が収入に直結する自営業やフリーランスの方、主夫や主婦でパートの方は加入しておいた方が安心でしょう。

通院にはお金がかかるだけでなく時間も割くことになります。小さいお子さんがいらっしゃるなどの理由で通院しにくいと感じる方でも通院保障に加入していれば精神的負担を減らすことが出来ます。

もちろん保険料は通院保障を付けない場合に比べてアップしますので、加入せずにその分を貯金しておくという考え方もあります。これは保険全般に言えることですが、一定の預貯金が確保出来ていれば必ずしも保険は必要ではありません。逆に預貯金が少ない方は敢えて加入した方が良いかもしれません。

また、会社勤めの方の場合は病気やケガで働けなくなった場合に健康保険から傷病手当金を受け取ることが出来ます。その為、通院保障は必要ない方もいらっしゃるかもしれません。

ただし、傷病手当金を受け取ることが出来るのは以下の4条件を満たした場合に限ります。

  • 療養を要する病気やケガが、業務以外の事由であること
    通勤途中を含む業務中に病気やケガをした場合は労災保険が適用されるため、対象外です。
  • 病気やケガの療養のために仕事が出来ないこと
    本人の自己申告で決まるのではなく、医師の判断によります。
  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けないこと
    3日間連続した休みが成立することが条件です。この休みには有休や土日祝などの公休も含みます。
  • 休んでいる間に給与の支払いがないこと
    病気やケガの療養のために仕事に就けない場合でも、給与の支払いがおこなわれている場合は対象外です。

傷病手当金が支給される期間は、支給開始から通算して1年6ヶ月に達する日までが対象となります。1日あたりの支給額は、支給開始以前の12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均し、それを30日間で割った金額の2/3となります。標準報酬月額には基本給や役職手当、通勤手当、残業手当なども含みます。

ただし、出張旅費や年3回までの賞与は含みませんので、年収に占める賞与やボーナスの割合が多い方は要注意です。

ご加入の健康保険組合によっては付加給付といって法定で定められた給付額に上乗せして支払われることもあります。他にも団体加入の生命保険や損害保険に加入していないかなど、勤務先の福利厚生規定を確認しておきましょう。

医療保険の通院保障(特約)がおすすめ出来ない3つの理由

上記で、一般的な通院保障について見てきました。私には通院特約が必要かもしれない、と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが判断を下すにはまだ早いです。実は、医療保障の通院保障特約はお勧めすることはできません。その理由を以下で解説していきたいと思います。

保険適用の条件が厳しい

医療保障の通院保障特約は、基本的には入院を伴った場合の通院が保障対象となっています。また、支払事由の条件として以下のようなものが挙げられます。

  1. 入院日数 例:継続して5日以上入院後の通院 など
  2. 通院日数 例:1回の入院に対して30日までの通院 など
  3. 通院期間 例:退院日の翌日からその日を含めて120日以内の間の通院 など
  4. 通院理由 例:治療措置を伴わない薬剤の購入・受取りのみの場合は非該当 など

保険会社やご加入時期によって支払事由の条件が異なりますので、詳しくは商品パンフレットや約款をご確認下さい。

払い込み額に比べて支払い額が少ない

入院が短くなり通院が増えていることは先に述べた通りですが、通院の間隔も長くなる傾向にあることも念頭に置いておく必要があるでしょう。平成29年患者調査の統計データ「再来患者の平均診療間隔の年次推移」によると、平成8年(1996年)は平均9.1日でしたが、年々間隔が開き平成29年(2017年)は11.6日になっています。

◆参照:厚生労働省「平成29年患者調査 再来患者の平均診療間隔の年次推移」(平成8年~平成29年)
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003302123

また、令和2年度医療給付実態調査を見ると、年齢によって違いがありますが、1人当たりの年間外来日数は7.87日となっています。

◆参照:厚生労働省「令和2年度医療給付実態調査報告」(P.4)※「協会けんぽ」を対象
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000032251678&fileKind=2

1人当たりの年間外来日数(日)
総数 7.87
0 – 4歳 11.66
5 – 9歳 7.61
10 – 14歳 5.94
15 – 19歳 4.55
20 – 24歳 4.07
25 – 29歳 4.9
30 – 34歳 5.43
35 – 39歳 5.67
40 – 44歳 6.11
45 – 49歳 7.01
50 – 54歳 8.62
55 – 59歳 10.21
60 – 64歳 12.04
65 – 69歳 14.31
70 – 74歳 18.02
(再掲)未就学児 11.07

医療保険の通院保障でいくら支払われるのか?」で挙げた医療保険の通院保障特約を基に保険料との兼ね合いを考えてみます。

例えば年齢等によって多少異なりますが前述の保障パターン①を例にとりますと対象期間は入院前・入院後を併せて180日間となり、年間外来日数の全年齢(総数)の平均が約8日間と考えると約4日間通院すると考えられます。

通院1日あたりの通院給付金が5,000円なので1年間で20,000円の給付金を受けられる可能性があるということになります。そこで4日分の給付金20,000円を通院特約の年間保険料で割ればその兼ね合いが分かると思います。

退院後の通院日数だけを集計したデータが無いので正確な計算ではありませんが、恐らく4年に一度の入院と想定するのであれば給付金を受け取れる額は支払保険料より少なくなるのではないでしょうか。

上記の計算はあくまで全年齢(総数)の平均値を前提とした一例であり、年齢によっても通院の平均日数も異なりますし、症状や治療方法によっては平均値よりも長期に渡り通院することもあることを前提にご理解、ご判断下さい。

長期通院が必要な場合、支払い額が少ない

通院といっても医師の診察費用だけであればさほどかかりませんが、がんなどの場合は抗がん剤や放射線などの治療費や薬代がかかるため、医療保険の通院保障特約では賄いきれない金額が請求されます。

また、症状や部位によっても違ってきますが、がん治療日数は長期になる事が多いため給付対象となる通院日数や通院期間が制限された通院保障では長期通院(治療)に対応できない可能性があります。

医療保険の通院保障(特約)以外の有効な方法

ここまで、医療保険の通院特約がお勧めできない理由を解説してきました。では、どのような保険なら加入する価値があると言えるのでしょうか。ここでは、医療保険の通院保障特約以外の有効な方法について解説していきます。

がん保険の通院保障

先に述べたように退院後の治療費が高額になる病気は色々ありますが、生涯で2人に1人が罹患すると言われるがんについては、特にご不安を感じる方が多いと思います。

実際、国立がん研究センターの最新がん統計によると、生涯でがんに罹患する確率は男性で65.5%、女性は51.2%となっており決して他人事とは言えません。

◆参照:国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん統計」 (全国がん罹患データ(2016~2019年))に基づく
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html

現在のがん治療の大きな柱は、手術治療・薬物療法(抗がん剤・ホルモン剤)・放射線治療の3つです。

手術治療については、一般的な医療保険で手術給付金の給付対象となっているため給付を受けることが出来ますが、薬物療法と放射線治療については抗がん剤の進歩や副作用に対する治療が進歩してきたことから短期の入院後に外来・通院で治療を行うことが多くなってきており、一般的な医療保険では給付金の対象外となっています。

このように治療方法によっては、通院保障の特約を付加していないと給付対象とならないケースもあります。

加えて生存率については多くの部位で上昇傾向にありますので、働きながらまたは自分や家族との時間を大切にしながら数年に渡ってがんと向き合い治療することが増えています。

◆参照:国立がん研究センター「年次推移」
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/annual.html

したがって、がん治療について言えば長く入院するのではなく外来・通院での治療が主流となっているのは自然な流れと言えます。

通院保障には全ての病気・ケガを対象とした通院保障よりも保険料が低廉ながん通院だけの保障もありますので、まずはこちらを優先して付加することを検討されることをおすすめします。

傷害保険に加入する

傷害保険は、保険会社によって内容は異なりますが、急激かつ偶然な外来の事故によるケガの治療を給付の対象とし、通院された場合に事故の発生の日からその日を含めて1000日以内の通院日数に対して30日を限度として1日につき通院保険日額が支払われます。

医療保険の通院保障特約では入院することが一つの要件になっていますが、傷害保険の場合は入院をしなくても通院だけで給付対象となるという点が大きな特徴です。

よくスポーツをする方や自転車に乗る方、ケガをしがちな小さいお子様などは傷害保険をご準備頂くのも良いのではないでしょうか。

最近ではクレジットカード会社から会員特典として、無料でケガの保険への加入案内が送られてくることもありますのでチェックしてみて下さい。

まとめ

今回は、医療保険の通院保障についての概略やその必要性について解説してきました。また、医療保険の通院保障以外の保障についても解説しました。

どの通院保障も注意点としては、新商品が発売される度にその支払事由の条件が時代に合ったものに変わってきていることが挙げられます。

加入してから10年前後経っている場合は、保障内容のチェックをしていただくことをお勧めします。特にがん保険の通院保障は一昔前までのタイプでは近年の治療実態に合っておらず、いざという時に必要な保障が得られないものになってしまっていることもあるので注意が必要です。

最近では1日あたりいくらという通院保障だけではなく、入院時や退院時にまとまった一時金を給付する保険も出てきています。こうした保険であれば通院のための時間を無理に割く必要もなく、給付金請求のために領収書を保管しておく手間も省けるため通院保障の代わりに加入されても良いかもしれません。

また、治療が長期化し通院することの多いがんでは、抗がん剤やホルモン剤、放射線治療など特定の治療を受ける都度給付されるがん保険が主流になっています。

その他、三大疾病と呼ばれるがん・心疾患・脳血管疾患や、これに高血圧・糖尿病・腎臓病・肝臓病を加えた七大疾病で所定の状態に該当したときに一時金が受け取れる保険もあります。これらもすべて退院後の通院治療費用を目的とした保険です。

通院保障を検討されている方、加入からすでにある程度の年月が経過している方は、これらの保険についても検討されてみると良いでしょう。

保険そのものの保障内容はもちろん、健康保険の付加給付や日々の生活習慣なども考慮した上で加入を検討したいところですが、なかなかご自身では客観的な判断が難しいかもしれません。ぜひ一度「保険のプロ」であるファイナンシャルプランナーにご相談下さい。

執筆者

鷹尾 和哉(ファイナンシャルプランナー)

2000年大学卒業後、大手システム開発会社に入社しインターネットバンキングなどの開発に従事。自身のライフプランを立てたことがきっかけでFPの資格を取得、その後外資系保険会社に転職し、約300世帯のライフプランを任される。よりお客様に寄り添った提案がしたいと2012年に現職へ。家計や保険の見直し、相続、資産運用などの個人相談業務を数多く行っており、個別の資金計画がとてもわかりやすいと好評を得ている。
■保持資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士AFP資格トータル・ライフ・コンサルタント
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