妊娠や出産等は、多くの女性にとってとても素晴らしい経験です。一方で、精神的・肉体的な不安に加え、経済的な不安も大きいのもまた事実です。
そして多くの妊婦さんが経験するのが「つわり」ですが、多くの方が不安に感じているのではないでしょうか?
ここではつわりの症状や、入院等が必要になったケースにおける入院期間や費用面の詳細、及び医療保険の請求方法についてなど詳しく解説していきたいと思います。
そもそもつわり(悪阻)とは
皆様は、「つわり」と聞いてどのような症状を思いつくでしょうか?
つわりは、食欲不振、吐き気、嘔吐などの消化器系の異常のことを主に指します。早ければ妊娠初期の4週頃から始まり、10~12週頃にはおさまりますが、16週頃まで続く場合もあるようです。
妊娠・出産を経験された女性に聞きますと、つわりはとてもつらい経験だったと語られる方が大変多いです。
つわりの症状として、何と言っても “気持ちが悪い” が一番で、“吐き気がする” “食欲不振” “頭痛” などを経験された方が多くいます。また、味覚や嗅覚が大きく変化する方も多く、例えばですが、炊飯器から出るご飯を炊く匂いがどうしても辛いという方、みそ汁が美味しくない、酸っぱいものが食べたいなど、その症状は様々です。
つわりの辛さも人それぞれで、実際につわりを経験してみないとどのような状態になるのかはわからないのが実情です。
多くの妊婦さんが経験するつわりとは
前述の通り、妊娠初期の4週頃から10~12週頃(長い方では16週頃)まで、妊娠によるホルモンバランスの変化により吐き気や食欲不振を引き起こします。
つわりの症状や重度は人それぞれですが、多くの妊婦さんがつわりを経験されていることからも、「つわりは起こるもの」と覚悟をしておいた方が良さそうです。
つわりが起こる原因については、妊娠による特定のホルモン分泌による嘔吐中枢が刺激されることで吐き気等の症状が現れることがわかっています。
また、ホルモンバランスの変化により自律神経へ影響を及ぼし消化器官の働きが鈍くなったり、身体のバランスを司る中耳の器官に影響を与えて、車酔いのような状態になったりします。
加えて、ビタミン・ミネラル(亜鉛など)不足やホルモンバランスの乱れによって、味覚や嗅覚が過敏になることもあります。さらに、赤ちゃんを異物と誤認識してアレルギー反応が起こっている可能性も指摘されています。
いずれにしても、これまでの身体からママになる準備段階で、ホルモンバランスの変化や自律神経の影響、アレルギー反応、ビタミン・ミネラル不足など様々な要因がつわりを引き起こしているのです。
つわりの主な症状
ここからは、つわりの主な症状について解説します。
つわりの症状や重度は人によって様々でありますが、今後、妊娠・出産を予定されている方に参考になればと思います。
嘔吐
妊婦さんの大半が吐き気や嘔吐を経験していると言われています。症状は人それぞれで、1日のうちの一定時間だけの方から、1日中吐き気を感じる方、妊娠期間中1回も吐き気を感じなかった方から出産までほぼ毎日吐き気を感じていた方もいるようです。症状の重たい方は、激しく嘔吐を繰り返し水分補給が困難となるために、脱水や飢餓症状になり点滴治療や入院が必要になる場合もあります。
食欲不振
主に吐き気や嘔吐が原因で食欲不振に陥る妊婦さんも少なくありません。また、胃もたれや胸やけ、胃痛を伴うケースもあるようです。匂いにも敏感になり、特に食べ物の匂い、生活臭等に通常時ではないほどの嫌悪感を抱くことも多くあります。食べ物への嫌悪や嗜好の変化も妊娠初期に起こる変化のひとつです。
頭痛
嘔吐や吐き気を繰り返すことによる疲労等も原因とされていますが、妊娠初期から頭痛の症状が現れる妊婦さんも少なくないようです。妊娠中のため、鎮痛剤等を服用することは控えないといけないたことから、しばらくの間は安静にして生活をするしかないのが実情のようです。
つわりでの入院 その期間と費用
ここでは、つわりで入院した場合にどのくらいの期間入院をする必要があるのか、およびその費用について解説をしていきます。
重度のつわりで入院するケース
つわりの症状が特に重い場合には、重症妊娠悪阻(おそ)と診断され、主治医の判断で入院を勧められることもあります。
重症妊娠悪阻は、入院して点滴(ビタミン剤・吐き気止め)投与から、徐々に食事を摂れるようになるまで入院することになりますが、具体的な治療方法については、各クリニックの医師の判断やその症状によっても異なるようです。
一般的には、まず尿検査をして「ケトン体」が出るかどうかで重症度の判定がされています。ケトン体が出るか否かで入院の必要性の判断もされるようです。妊婦さんそれぞれの症状や状況にもよりますが、①1日の食事量・水分量②1日の嘔吐の頻度③1日の排尿の頻度(回数)④体重の減少/1週間程度等も判断基準になります。
主な治療方法は、「水分補給」と「栄養(ビタミン等)補給」になります。これらを適時補給して安静にすることが求められます。
軽度の症状で、食事を摂取することが可能な場合には、食事の改善(食事療法)等をして症状の安定を図ります。
一方、食事等が摂取出来ない場合には、点滴によって水分補給と症状によっては栄養(ビタミン等)補給をしていきます。ここまでの症状でしたら、通院治療でも対応しているケースも多いようですが、さらに症状が重度になりますと、やはり入院をして医師の管理下にて治療をしていくことになります。無理をせず主治医に相談し治療をしながら症状の安定を図ることが大切です。
ご自身の判断に頼らず、入院をして適時「水分補給」と「栄養(ビタミン等)補給」、精神的なストレス改善や胎児への影響も考慮して治療していくことをおススメします。
■参考 ケトン体とは・・・脂肪の合成や分解による中間代謝産物。通常、血液中にはほとんど存在しませんが、糖尿病や糖質制限、絶食等、脳や筋肉のエネルギー源とされる糖質(グルコース)が利用できない時に代わりにエネルギー源として使われます。
つわりでの入院期間
入院期間についても個人差がありますが、比較的軽度の場合には1週間~10日程度で退院出来ることもあります。
一方、重度の症状の場合には、退院まで2~3ヶ月かかる方もいます。
重症妊娠悪阻は、症状も個人差があり入院期間についても様々と言えます。
つわりでの入院費用
重症妊娠悪阻で入院した場合の費用についてですが、入院日数や病室種類(個室等の差額ベッド代)等によって金額に幅があるのが実情です。症状により入院が長期になる場合には、出費も大きくなる可能性もあります。
入院費の内、差額ベッド代や食事代など全額自己負担になるものもありますが、基本的には健康保険(3割負担)や傷病手当金、高額療養費制度の利用が可能です。多くの方が個室を希望されるかと思いますので、差額ベッド代も含めての医療費がかかると考えておいた方が良いでしょう。
厚生労働省『主な選定療養に係る報告状況』によると、差額ベッド代の平均は、6,527円/日(1人部屋 8,221円/日)(令和2年7月1日現在)と言われています。
入院時の食事代は、被保険者・被扶養者ともに「1食460円」を負担すればよいことになっています。この460円は、「標準負担額」と言いまして、平均的な家計における食費をもとに厚生労働大臣が金額を定めています。ただし、住民税非課税世帯の場合や指定難病患者等は、標準負担額が軽減されることになります。
所得区分 | 標準負担額 | |
---|---|---|
一般(下記以外の方) | 1食につき460円 | |
住民税非課税世帯 | 90日までの入院 | 1食につき210円 |
90日を超える入院 (過去12か月の入院日数) |
1食につき160円 | |
所得が一定基準に満たない70才以上の高齢受給者 | 1食につき100円 |
参照:厚生労働省「主な選定療養に係る報告状況」
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000853121.pdf
全国健康保険協会「入院時食事療養費」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3170/sbb31702/1951-254/
つわりでの入院に適用される2種類の保険
ここでは、つわりで入院した際に役立つ2種類の保険について、詳しく解説していきます。
保険の適用条件は妊娠悪阻と診断されること
つわりによって入院が必要と診断された場合、健康保険(公的保険)も医療保険(民間保険)も保障の対象となります。
さらに、女性疾病(入院)特約が付帯されている医療保険(民間保険)では、入院給付金に上乗せして支払われます。その際の支払い条件としては保険会社によって異なるケースもありますが、主に「重症妊娠悪阻」と診断されることが適用条件となります。
公的保険による保障
まず、公的保険の保障について解説をしていきます。公的保険について、以下の3つの制度を利用することが出来ます。
健康保険
病気やけが、傷病による休業、出産、死亡などに対して、医療費の負担や各種給付金を受け取れます。基本的に、実際にかかった医療費に対して3割の自己負担となっています。健康保険制度の詳細については、加入している健康保険組合・共済・国民健康保険等にて確認してください。
傷病手当金
傷病手当金は、病気やけが等による休業中に被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。
病気やけがのために会社を休み、事業主から十分な報酬が得られない場合に支給されます。
なお傷病手当金は、健康保険に加入している本人のみ対象となります。会社員のご家族など扶養に入っている方は対象外となります。また、自営業者等の国民健康保険加入者も対象外となりますので注意が必要です。
傷病手当金の受給条件
- 業務外の事由による病気やケガで療養中であること
- 労務(今まで従事してきた仕事)に服することができないこと
- 連続する3日間(待機期間)を含み4日以上休んでいること
- 給与の支払いがないこと(給与の減額支給等ある場合は調整あり)
高額療養費制度
同一月にかかった医療費の自己負担額が高額になった場合、一定の金額(自己負担限度額)を超えた分が後日払い戻される制度です。
ここで入院前におすすめしたいのが「限度額適用認定証」の発行申請です。この手続きによって、入院・手術、あるいは高額な外来治療(平成24年4月1日~)を受ける際に、医療機関等に提示することで、窓口で支払う1ヶ月の金額が自己負担限度額までになります。事前の申請をしない場合、一度自己負担限度額を超えて全額支払いをする必要があります。(※事前申請をしても食事代や保険適用とならない費用(差額ベッド代など)は別途支払いが必要となります。)
なお限度額適用認定証の申請は、勤務先(被保険者もしくは扶養者)の健康保険組合や全国健康保険協会(協会けんぽ)、お住まいの自治体窓口にて可能です。
■参考 東京都福祉保健局『高額療養費』https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/iryo/kokuho/aramashi/kyuufu/kyuufu03.html
■参考 全国健康保険協会『限度額適用認定証申請』
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r121/
民間保険による保障
公的保険に加えて、民間保険に加入しておくことで入院時あるいは女性疾病に罹患時の経済的負担に備えることが可能です。
つわりによる入院の際、民間保険の医療保険から「入院給付金」の支払対象になります。加入している医療保険種類にもよりますが、基本的に入院1日目から支払いの対象になる医療保険がほとんどです。
また、妊娠・出産に関わる入院の際には、「女性疾病(入院)特約」が付帯されているとさらに保障が手厚くなります。
この女性疾病(入院)特約は、各保険会社の保険種類にもよりますが、つわり(重症妊娠悪阻)の他、(切迫)流産、(切迫)早産、子宮外妊娠、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開、多胎分娩、産科的感染症等も保障の対象になることも。その他、女性特有の病気等も保障されますから、妊娠前後の病気に罹患した際にも保障が充実していて安心です。
また女性が入院する場合、個室を選ばれることが多く、差額ベッド代等の負担も決して小さくありません。民間の医療保険、特に女性疾病(入院)特約が付帯されていることで安心して入院できます。
つわりでの入院での保険金の申請方法3ステップ
ここでは、入院時に保険金(給付金)を請求する方法について3ステップで解説をしていきます。
生命保険会社に書類の送付依頼をする
生命保険会社に給付金請求の書類について、送付依頼をする必要があります。
その際に、下記の情報をお手元に準備してから請求をするとスムーズです。
- 証券番号
- 契約者(被保険者)氏名
- 傷病名
- 入院日(退院日)
- 手術の有無・通院の有無等
なお、生命保険加入時の代理店(担当者)にご相談されますと、請求のサポートやアドバイス等もしてもらえると思いますので、ご連絡をしてみて下さい。
主治医に診断書の作成依頼をする
診断書は主治医が記入する書類となりますが、5,000~10,000円程度費用がかかります。主治医に診断書の作成依頼をする際には、出来るだけ入院中に手配が出来ると良いと思います。退院時に診断書を受け取ることが出来る場合もありますし、退院後の早い段階で保険金の請求手続きが可能になります。
なお、診断書は原則として生命保険会社所定のものを使用しますが、保険会社によって異なりますので請求時に確認をしておくと良いと思います。また、入院日数や支払われる入院給付金の合計額などに応じて診断書の添付が不要となる生命保険会社もあります。
生命保険会社に請求書類を送付する
生命保険会社から送付された書類「請求書・診断書等」の案内に従って必要書類を整え、生命保険会社へ提出します。
請求書・診断書等については、保険会社から届いた記載事項など確認をして進めるとスムーズかと思います。
また、給付金の請求権の時効は、約款で一般的に“3年”と定められていますので、早めに請求されることをおススメします。
つわりでの入院に関する保険Q&A
ここでは、つわりでの入院に関する保険について、Q&A形式でお答え致します。
保険金は一般的にどれくらいもらえるのですか?
ここでは、実際にどのくらいの保険金(給付金)が支払われるのかという点について、例を挙げて解説をしてみたいと思います。
A社医療保険 (保障内容)
- 入院日額5,000円/日(病気やけがによる入院を日帰り入院から保障)
- 入院一時給付特約10万円(日帰り入院から入院を一時金で保障する特約)
- 通院(治療)特約 5,000円/日(退院後の通院を保障)
- 女性疾病(医療)特約 5,000円/日(女性疾病で入院・治療した際に支払い対象になります。)
ケーススタディ
上記A社医療保険に加入している方が、つわり(重症妊娠悪阻)になって10日間入院し退院後3日通院治療した場合の保険金(給付金)
入院給付金 5,000円×10日=50,000円
入院一時金 100,000円
通院(治療)5,000円×3日=15,000円
女性疾病(医療)5,000円×10日=50,000円
合計保険金(給付金)215,000円
これはあくまでも一例ですが、前提の医療保険に加入した場合の保険金(給付金)は上記の通り支払われます。(なお、加入している医療保険によって支払いの条件等は異なります。)
個室に入院した場合、差額ベッド代65,270円(6,527円×10日)・食事代13,800円、その他入院関連費がかかります。
上記のような医療保険に加入しているだけで、経済的・精神的に安心して入院が出来そうですね。
出産時の入院にも保険は適用されますか?
出産時の入院について、医療保険給付金の支払い対象になるかどうか解説をしていきます。
公的保障の健康保険については、出産時の入院に適用されますし、出産育児一時金等も出産時に受け取ることが出来ます。
一方、民間の医療保険では、通常分娩での出産・入院は支払いの対象にはなりません。ただし、帝王切開や吸引分娩等の手術や、妊娠中毒症、早期胎盤乖離等による入院などは、保険金(給付金)の支払い対象になります。
また、出産前後で何かしらの疾病を抱えることになった場合にも、民間の医療保険により保険金(給付金)を受け取ることが可能です。
なお支払い条件等については保険会社によって異なりますので、ご自身の加入されている保険がどのような保障内容なのか、妊娠前に確認しておくことも大切です。
こちらの記事も併せてご一読いただけたらと思います。
まとめ
今回は、つわりの症状や入院時の費用および健康保険制度・民間の医療保険の活用についてなど解説をしました。
妊娠・出産は、新しい家族が増える喜びとともに、大切な命を育んでいく素晴らしい経験であると思います。それと同時に、妊娠期間の体調の変化や出産等、不安も多くあるかと思います。
経済的な不安は、健康保険や医療保険で準備することが可能ですが、精神的な不安は何と言っても家族の支え、特に配偶者の理解と協力は重要になってきます。家族にとっての大切な“新たな命”の誕生ですから大切に育てていきたいですね。
また、新たな家族が増えることによってライフイベントも大きく変化していきます。保険のプロでもあるファイナンシャル・プランナーに、ライフプラン作成や学資準備のアドバイスも含めてご相談されるのも良いと思います。
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