「少子高齢化」や「長寿社会」などといったキーワードをよく耳にすると思いますが、このキーワードに関連し、避けて通れないのが「介護」の問題です。将来的に訪れる「介護」の問題に対して、漠然とした不安を抱えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
例えば、介護の大変さやその経済的負担についての苦労話を、周囲の方から聞いたり身近な方の介護を実際に経験し、介護の大変さを実感されている方もいらっしゃるでしょう。
医療の進歩もあって今後ますます人々が長寿化することを考えると、介護は誰しも直面する可能性が非常に高い問題と言えるでしょう。この場合に、最もネックになるのは「介護費用をどう準備をするか」ということです。
今回の記事では、公的介護保険と民間の介護保険との違いや、民間の介護保険とはどういう内容なのか、また加入に際し注意すべき点やご自身に合った加入の仕方などを解説して参ります。
「介護」に対する不安を解消し、ぜひ今後の参考にしていただければと思います。
民間介護保険とはそもそもどういうもの?
民間介護保険に注目が集まる背景
近年、要介護(要支援)認定者数の増加に伴って、民間の介護保険に対しても注目が集まっています。
「老老介護」や「介護離職」など両親の介護にかかわる様々な苦労や問題について近年話題になることが増えてきましたが、そのための備えの一つと言えるのが民間の介護保険です。一体、どんな商品があり、どのように選ぶのが良いのでしょうか。民間の介護保険について解説して参ります。
民間介護保険の概要
介護を考える場合、社会保障制度としての公的介護保険がベースとなり、40歳以上の人はすべて、この公的介護保険制度に加入することになっています。
この公的介護保険だけでは賄うことができない分を自助努力で補う方法として、民間の生命保険会社の介護保険に加入するという方法があります。民間の商品ですから、加入するかどうかは任意です。加入したいという人だけが保険会社と契約し、保険会社に保険料を払い込みます。
民間介護保険の加入率
では、民間の介護保険にはどれくらいの方が加入しているのでしょうか。加入率について調査したデータがありますので見てみましょう。
令和3年度の民間生命保険加入世帯(かんぽ生命を除く)における介護保険・介護特約の世帯加入率は16.7%(前回14.1%〈平成30年度〉)となっています。
世帯員別にみると、世帯主は13.6%(前回10.5%)、配偶者は8.5%(前回7.8%)となっています。
※民間生命保険(かんぽ生命を除く)に加入している世帯が対象
※寝たきりや認知症によって介護が必要な状態になり、その状態が一定の期間継続したときに、一時金や年金などが受け取れる生命保険、あるいは特約が付加された生命保険であり、損害保険は含まれない
参照:(公財)生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査(速報版)」
https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/r3/sokuhoubanR3.pdf
上記のデータを見ても分かる通り、民間の介護保険の加入率は高いとは言えず、まだまだ「介護」についての関心度、優先順位が低いことが見て取れます。
確かに若年層にとっては当面の生活が最も重要で、「介護」は老年層しか関係ないと思われがちかもしれません。しかしながら、実は若年層にもいつ起きるか分からないという点を考慮しておく必要があります。必要性を感じた時には既に対策が打てないということも考えられるのです。
公的介護保険との比較
公的介護保険が介護サービスなどの「現物給付」であるのに対し、民間の介護保険は使いみちが自由な「現金給付」であることが最大の違いです。
また、40歳未満の方は公的介護保険に加入できませんが、民間の介護保険は40歳未満でも加入できる商品も多く、若いうちに準備を始めることが可能です。
さらに、公的介護保険では40歳以上65歳未満の人は16種類の特定疾病(下記参照)で要介護状態に該当した時にしか介護サービスを受けることができませんが、民間の介護保険にはこの制限がないものも多く様々な選択が可能です。
参考:16種類の特定疾病
- がん(医師が一般に認められている医学的知見に基づき回復の見込みがない状態に至ったと判断したものに限る)
- 関節リウマチ
- 筋萎縮性側索硬化症
- 後縦靱帯骨化症
- 骨折を伴う骨粗鬆症
- 初老期における認知症(アルツハイマー病、脳血管性認知症等)
- 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 脊柱管狭窄症
- 早老症
- 多系統萎縮症(シャイ・ドレーガー症候群等)
- 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
- 脳血管疾患(脳出血、脳梗塞等)
- 閉塞性動脈硬化症
- 慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎、気管支喘息びまん性汎細気管支炎)
- 両側の膝関節又は股関節に著しい変形を伴う変形性関節症
民間介護保険の必要性
よくお客様から「私には民間の介護保険の準備は必要でしょうか?」というご相談を受けます。
ここでは、民間の介護保険の準備が必要な人・準備が不要と思われる人について解説して参ります。民間の介護保険の必要性を検討、判断する材料としていただければと思います。
民間介護保険をおすすめできる人
要介護状態になる可能性は誰しもが抱えています。実際に要介護状態になった場合、高額な費用がかかることが多く、特に40歳未満の方は公的な介護保険に加入できないため経済的に困窮する可能性があります。
こういった不測の事態に陥った場合にも対応できるほどの資産を持っていれば別ですが、そうでなければ民間の介護保険をおすすめいたします。
今後も益々少子高齢化、核家族化が進み、介護の必要性が出てきた時の経済的・精神的な負担は大きくなり、その負担は近親者にのし掛かってしまいます。精神的な負担は軽減することはなかなか難しいですが、少なくとも経済的な負担を掛けないような自助努力が必要ではないでしょうか。
民間介護保険が不要な人
上記で解説した内容の裏返しということになりますが、潤沢な預貯金などの財産がある人や、十分な年金などの収入の見込みや不動産所得などの所得が継続的にある人は民間の介護保険に加入の必要はないと一般的に言われています。
しかしながら介護状態になる可能性は誰しもが抱えていて、場合によっては夫婦共に介護状態になるケースや介護状態が長期化することによる継続的な経済負担、また65歳未満の現役世代で要介護状態になった場合の介護にかかる費用負担、生活費の補填の必要性も考えられます。
このような点から言えば、不要に感じておられる方も含めて、全ての人が加入に関して検討くらいはしたほうが良いと言えます。状況によっては介護による経済的な負担がいくら位かかるのか分からないからです。
民間介護保険選びの4つのポイント
ここからは、民間の介護保険について、沢山の商品の中からご自身にあったものを選択していく上で必ず押さえておきたい4つのポイントについて解説していきたいと思います。
貯蓄性の有無(掛け捨て型/貯蓄型)
民間の介護保険には貯蓄性を伴う商品と掛け捨て型の商品があります。
加入を検討される場合にご自身にはどちらのタイプが向いているのか、またそれぞれどの様な特徴やメリット・デメリットがあるかを解説いたします。
掛け捨て型
保険料を安く抑えたいのであれば掛け捨て型の介護保険を検討しても良いでしょう。
ただ、当然ながらせっかく準備をしていても介護状態にならないケースもあります。
いわゆる掛け捨てタイプの介護保険では、死亡保険金や解約返戻金、満期保険金などがないケースが多く、所定の要介護状態となって保険金や給付金を受け取らない限り、受け取るものは何もないということになります。
その分掛け捨て型の介護保険は保険料が低く押さえられているため、無理のない保険料負担にしておくことが可能になります。
貯蓄型
他の保険商品と同様に貯蓄型の介護保険もあります。
貯蓄型の介護保険では、何も請求する事態が生じなくても貯蓄としての機能が働くため解約時には一定の解約返戻金を受け取ることができます。
当然ながら、掛け捨て型の介護保険と同等の保険金額を掛けた場合、支払う保険料は割高になります。
保障期間(定期/終身)
民間の介護保険を検討するにあたり、保障期間をご自身で決定する必要があります。ここでは定期型と終身型の2タイプの特徴やメリット、デメリットなどを解説します。
定期型
定期型の介護保険では、保障の期間が一定期間となります。
メリットとして、一生涯を保障する終身型と比較すると支払う保険料は一般的に割安になります。
ただ、一定期間のみの保障となっているため、保障期間が終了すれば、いざ介護状態になったとしても保障が無いといったケースが生じますので、このようなことがおこらないように注意が必要です。
終身型
一生涯の保障を要望するのであれば、終身型を選択するようにしましょう。
ただし、デメリットとしては、定期型と比べ支払う保険料は一般的に割高となり、保険料の支払期間も終身(一生涯)となれば保険料負担はずっと発生します。
受給方法(一時金/年金/併用)
ここでは、受給方法について解説していきます。一時金で受取れるもの、年金型で受取れるもの、一時金と年金を併用で受取れるものの3タイプに分かれます。それぞれのタイプの特徴やメリット、デメリットなどを解説します。
一時金
公的介護の認定を受けた時、または保険会社独自の支給基準を満たした場合、加入時に契約した金額が一時金として支給されるものが一時金タイプです。
メリットとしては、認定基準または支給基準を満たせばまとまったお金を受取ることが出来ますが、デメリットとしては保険契約がその時点で消滅してしまいます。
年金
公的介護の認定を受けた時、または保険会社独自の支給基準を満たした場合、加入時に契約した金額が年金型で支給されます。
有期年金(一定期間)と終身年金と2種類があり、終身年金だと生存している限り一生涯受給できるのがメリットとなります。デメリットとしては介護になった時の初期費用としてのまとまったお金を受け取ることができません。
一時金と年金の併用
公的介護の認定を受けた時、または保険会社独自の支給基準を満たした場合、まず一時金を受取り、その後年金型でも受け取ることが可能なハイブリッド型の商品も存在します。
受取総額としては一般的に最も大きな金額となりますので、当然ながら一時金タイプや年金型の商品よりも支払う保険料は割高になるのがデメリットですが、初期費用としてのまとまったお金もそれ以降の年金も、両方ともに受け取ることができるのがメリットとなります。
支払事由(連動型/独自型)
公的介護保険制度に定める所定の介護基準(介護等級)に連動して給付されるものと、保険会社が独自に定めた基準をもとに介護保険金が給付されるものがあります。
給付基準については特に大事な要件ですのでしっかり確認して加入する必要があります。
連動型
公的介護保険制度に定める所定の介護基準(介護等級)に連動して給付される商品タイプのメリット・デメリットは次のようになります。
メリット
- 保険会社が独自に定めた基準をもとに介護保険金が給付されるものと比べて給付の判断基準が公となっているので分かりやすい。
公的介護保険制度に定める所定の介護基準(介護等級)については、保険会社によっては要介護1から給付する介護保険もありますし、要介護3からでないと給付の要件とならない介護保険もあります。
その点も給付に際し大事な要件となりますので、しっかり確認したうえで加入を検討するよう注意が必要です。
デメリット
- 保険会社が定めた独自の支給要件の方が公的介護保険の支給基準よりも緩やかな場合もある。
- 公的介護保険の介護認定には時間を要することも多く、介護認定がされるまで介護保険金が支給されないことが一般的で、保険会社が独自に定めた支給基準の方がスピーディーに支給されることが多い。
独自型
上記の公的介護保険制度連動型のメリットとデメリットと正反対の捉え方になります。
メリット
保険会社が独自に定めた支給基準の認定の方が公的介護保険での介護認定よりもスピーディーに認定、支給されることも想定される。
デメリット
支給基準を保険会社が独自に定めるため保険会社によってその基準はまちまちとなり、支給基準に合致しているか分かりにくい。
民間介護保険に関するQ&A
民間介護保険の月々の保険料はいくら?
どのような保障内容で民間の介護保険に加入するか、また対象となる被保険者の方の年齢や性別によって、当然保険料はまちまちとなりますので一概に月々の保険料はいくら?という質問にはお答えできません。
一般的には前述しましたように、解約返戻金がない掛け捨て型や保障期間が定められている定期型は比較的保険料が安くなり、逆に貯蓄型や一生涯保障のある終身型の保険料は高くなる傾向にあります。
希望する、あるいは必要とする保障内容の概要が決まれば、保険会社の担当者や保険の知識豊富なFP(ファイナンシャルプランナー)に問い合わせられることをお勧めいたします。大体の保険料が分かれば具体的は保障内容を決めていくこともできるかと思います。
参考までに民間の生命保険における介護保険・介護特約の介護給付金月額の平均額は世帯主が7.6万円(前回8.6万円)、配偶者が6.9万円(前回6.1万円)となっています。
参照:(公財)生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査(速報版)」
https://www.jili.or.jp/files/research/zenkokujittai/pdf/r3/sokuhoubanR3.pdf
民間介護保険の適切な加入年齢は?
介護保険に限らず生命保険全般に言えることですが、「1歳でも若く、健康なうちに」がキーワードになります。
年齢も若く健康な時というのは、病気やケガ、特に「介護」についてなかなかイメージする機会が無いものです。
しかし、いざ体調に不安を感じ、保障が必要になった時には既に保険に加入できないといったお客様を私は何度も見てきました。
当然若い方の方が保険料も安く加入できますし、ご自身の将来のことも視野に入れて早め早めの対策を講じるに越したことはありません。
民間介護保険の特約はつけるべき?
加入者様の経済状況によって特約をつけるべきか否か変わってくる、というのが結論になります。当然、特約を付けて保障を厚くした方が安心である一方で月々の保険料は高くなります。保険料の支払いで家計が圧迫されてしまっては元も子もありませんから、しっかりとご自身の経済状況を踏まえて決めるようにしてください。
民間の介護保険には保険商品ごとに付帯できる様々な特約があります。主契約だけでなく付帯できる各種特約も加入を検討する際の検討材料に考慮する必要があります。
代表的な特約として挙げられるのは
- 介護一時金特約
- 介護年金特約
- 保険料払込免除特約
などがあります。
注:保険商品ごとに付帯できる特約が多数ありますので、保険商品ごとのパンフレットや商品概要説明書、約款などでご確認下さい。
民間介護保険の加入方法は?
民間の介護保険の加入までは、大きく分けて3ステップになります。
- まずは介護の現状やどの程度の備えが必要なのかを知る
- その備えをどの保険商品でどの程度準備をするのか、支障なく払っていける保険料で比較検討する
- 支給基準や保険期間、貯蓄性の有無などをきちんと把握できたら保険商品の加入手続きに入る
複雑で煩雑に感じる方がいらっしゃいましたら是非ファイナンシャルプランナーに相談されて下さい。介護のことや公的介護保険、民間の介護保険についての知識や経験を備えているため、一人一人に合った内容でアドバイスをしてくれることでしょう。
まとめ
民間の介護保険の基礎的な解説、必要性や具体的な選び方について順を追って解説して参りましたがご理解いただけましたでしょうか。
介護はもはや「他人事」ではなく、かなり身近な存在です。ご自身の両親だけでなく、配偶者の両親、またご自身や配偶者にもいつ起こるか分からない問題として認識し、そうなった時にどれくらいの出費が伴うのか事前の対策をどう打つべきなのかを考えていく必要があるのではないでしょうか。
民間の介護保険が必要かどうかも個々人によって異なってきますし、数多くの民間の介護保険の中からご自身に最適なものを選び取るのは極めて難しい事です。
介護保険に関してお困りの際は、公的介護保険、民間の介護保険をはじめ、保険のプロであるファイナンシャルプランナーにぜひ相談なさってくださいね。