働いている間はまだまだ先だと思っていても、いつか必ずやってくる定年や老後。誰しもが豊かな老後、悠々自適な生活を送りたいと考えているはずですが、その真逆の状態である「老後破産」という言葉を新聞や雑誌などで目にする機会も増えているかと思います。
『老後破産ってどういう原因で起こってしまうものなの?』
『老後破産を引き起こさないためにはどうすれば良いの?』
こういった疑問をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。身近な方が実際に老後に破産してしまった、という方はそうそう多くはおられないでしょうから、その原因や対策についてもなかなか思いつかないかもしれません。
この記事では老後破産を引き起こす原因を様々なケース別にご紹介するとともに、老後破産にならないために今すぐ出来る対策をお伝えします。
老後破産とは?
老後破産の概要
そもそも老後破産とはどのような状態なのでしょうか?
端的に言えば、支出が収入を上回る状況が続き貯蓄をとりくずしてしまった結果、実際に破産したかどうかではなく破産せざるを得ない状態に陥ってしまうことを指します。
実際、「厚生労働省 2019年国民生活基礎調査の概況」によると、高齢者世帯(65歳以上の者だけで構成される世帯)で貯蓄がないと答えた割合は14.3%となっています。また、貯蓄額が300万円未満の高齢者世帯も17.5%となっており、30%超の高齢者世帯で突発的な出費があると途端に経済的に困窮してしまう恐れがある状況にあります。
参照:厚生労働省 2019年国民生活基礎調査の概況(各種世帯の所得等の状況)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf
老後に必要になるお金
老後においても日々の生活費はもちろんですが、それ以外に発生する費用についても考えておく必要があります。
例えば持ち家であれば固定資産税や家屋の修繕費用、賃貸であれば毎月の賃料や更新料などが挙げられます。
他にも家具や家電製品など耐久消費財の買い替え費用、車を保有している場合は車の維持費用(自動車税や車検、任意保険)も必要になります。
また、加齢に伴う体力の衰えは避けられませんので、病気や介護になった際の備えも準備出来ると安心です。
具体的な金額の一例としては、2019年に金融庁の金融審議会 市場ワーキンググループが公表した報告書を発端とした「老後2000万円問題」の算出基準となった、2017年の総務省「家計調査」によると、高齢夫婦無職世帯の家計支出の平均は月263,717円となっています。
内訳は、税金・社会保険料28,240円、食費64,520円、水道光熱費19,309円、交通費・通信費27,550円、衣服費6,593円、保健医療費15,541円、住居関連費13,657円、教養娯楽費24,960円、交際費27,315円などとなっています。
月26万円余りの生活費を公的年金だけで生活して行くのは大変なことだとご想像いただけると思います。ここに不慮の事故や病気が重なってしまうとどうでしょうか。途端に経済的に困窮してしまう可能性は大きく増えるでしょう。
参照:総務省 家計調査報告(家計収支編)平成29年(2017年)II 世帯属性別の家計収支(二人以上の世帯)
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/nen/pdf/gy02.pdf
老後破産の実例
ここでは、過去に私の元へご相談に来られたケースについてご紹介いたします。老後破産の具体的イメージを掴んでみてください。
ご主人は会社員として40年勤め上げられ、奥さまは扶養範囲内でパートをされていたというご夫婦。お子様は長男・長女の2人でそれぞれご結婚されて別世帯でした。定年後には1000万円近く預貯金があったとのことですが、住居は賃貸であったため日々の生活費と合わせると公的年金だけでは少し足らず、毎月数千~数万円取り崩す生活を続けておられました。加えて長女が度々お金の無心をしていたことから、ご主人が亡くなられた時には葬儀代も出せなくなっている状況になっており、残された奥様は今後の生活費をどう工面すれば良いか分からず、相談に来られました。
ご主人の遺族年金と奥さまの公的年金だけではいくら切り詰めても家賃と生活費を賄うことが難しい状況でした。結局、長男家族と同居することが出来たため事なきを得ましたが、もしお子さんがいらっしゃらなければ老後破産となっていたと思われます。
定年直後の状況では、まさか自分が老後破産するとは思いも寄らなかったことでしょう。しかしながら、様々な要因が重なってくると老後破産は誰にでも起こり得るものなのです。
老後破産を引き起こす7つの原因
ここまで老後破産について、概要や実例を交えて詳しく解説してきました。
ここからは、老後破産を引き起こす7つの具体的な原因について1つ1つ確認していきます。ご自身が該当していないか注意しながら読み進めてみてください。
収支の確認を怠る
特に現役時代に収入が高かった方に多いのですが、年金生活になり、収入が少なくなった状態にも関わらず支出の見直しをせず「まだまだ貯蓄があるから大丈夫だろう」と油断をしてどんぶり勘定のまま生活を送り、取り返しのつかなくなるパターンです。
見栄を張らず、分相応の生活を送れば問題ないはずなのですが・・・。
病気・ケガ・介護への備え不足
突然の大病で治療費が高額になることもあれば、糖尿病や肝臓病など徐々に進行する生活習慣病も治療にお金が掛かります。70歳以上75歳未満であれば医療機関の窓口負担割合は2割(現役並み所得者は3割)、75歳以上は1割(現役並み所得者は3割)となるため医療費が少なく済むイメージがありますが、全外来患者数の50%以上、全入院患者数の70%以上は65歳以上となっています。
参照:厚生労働省 平成29年 患者調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/17/dl/kanja-01.pdf
また、介護は施設の入居一時金だけでなく毎月の費用が積み重なることや、どれだけの期間続くのかが判らないことから、貯蓄残高を一挙に減らしてしまうことが多くあります。
熟年離婚
夫婦2人分の年金があれば基本的な生活費は賄うことが出来ることが多いのですが、離婚をすると婚姻期間中に築き上げた財産が半分となる上に年金も1人分しかもらえない中での生活となるため、途端に立ち行かなくなってしまうことが多いです。
公的年金給付額は現役時代の働き方によって異なりますが、平成30年度の国民年金の老齢年金の平均年金月額は56,000円、同じく厚生年金の老齢年金の平均年金月額は146,000円となっています。
参照:厚生労働省 平成30年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 https://www.mhlw.go.jp/content/000578278.pdf
予期せぬ家庭問題
お子さんが離婚をしてその子供を連れて帰ってきたりすると、想定していたよりも生活費が多くかかってしまい、老後破産へと進んでしまうこともあります。
また、家族の介護や借金、相続争いなどもきっかけになることがあります。
金銭感覚を変えられない
働いてお金を稼ぐことが出来る現役時代であれば、貯蓄が少なくなってきてもボーナスなどでまとまったお金が入ってくることもありますが、定年後はそうはいきません。
また、自由時間も多い分無駄遣いをしてしまいがちです。特に日々の生活費については、数カ月でも構わないので家計簿をつけて本当に必要なものとそうでないものを見極めるようにしましょう。
定年を過ぎたのに住宅ローンが残っている
最近では、住宅ローンの完済年齢の平均が上昇していると言われています。晩婚化や住宅価格の上昇、借入金利の低下など様々な要因が考えられ、その結果利用者がローンを完済する年齢が定年や年金の受け取り開始年齢を超えるようになってきているようです。また、これらのことは住宅ローン「フラット35」を提供する住宅金融支援機構のデータからも見て取ることができます。
一般的に住宅ローンは35年間の返済計画を立てることが多いと思います。30歳までに住宅ローンを組めば35年返済でも年金生活が始まる前に返済完了しますが、30歳を超えて購入する場合は、定年前後に完済出来るような繰り上げ返済の計画を考えておく必要があります。
参照:住宅金融支援機構(フラット35利用者調査)
https://www.jhf.go.jp/about/research/loan_flat35.html
お金の相談をできる人がいない
親や兄弟姉妹などの家族にお金の相談をすることが憚られ、問題を一人で抱え込んでしまうケースがあります。
早めに対応すれば解決可能なことも放っておくとこじれてしまいます。身近なお金の専門家であるファイナンシャルプランナーに相談しましょう。
老後破産に対する年齢別の対策
ここまで、老後破産を引き起こすことになる7つの原因について解説してきました。
ここからは、老後破産に対してとるべき対策について年代別に解説をしていきたいと思います。年代によってとるべき対策が大きく異なってくるため、ご自身が該当される部分を中心にしっかりと見ていきましょう。
40代の方がすべき対策
仕事面では部下が付いて責任のある役職を任せられるなど仕事上の付き合いも増え、家庭面ではお子様の教育費や住宅ローンなどが頭を悩ませる頃でしょうか。
老後はまだまだ先のことと感じてしまうでしょうが、そろそろしっかり準備を始めたい年代です。
子どもの教育費をしっかり検討する
出来る限りいろいろなことを習わせてあげたい、学力の高い学校へ通わせてあげたいなど子どもの可能性を信じて伸ばしてあげたいと思うのが親心かと思います。
しかし、「教育費は聖域」として身の丈に合わないお金を掛け過ぎると老後破産へのきっかけとなってしまいます。
特に公立か私立かでは大きな違いがあり、幼稚園から高校まですべて公立だった場合の教育費総額(習い事など学校外活動費含む)は約540万円、すべて私立だった場合は約1770万円と3倍以上の開きがあります。
参照:文部科学省 平成28年度子供の学習費調査より
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa03/gakushuuhi/kekka/k_detail/1399308.htm
第一子が私立へ入学すると、弟・妹も同じように私学へ入学させてあげたいと教育費がさらにかさんでしまうことも多いので、今だけでなく将来の資金準備もしっかり確認しましょう。
計画的な学資準備の方法としては学資保険の活用も一手です。いつまでにどのくらいの額を準備する必要があるのかを考えた上で、無理のない積立額で始めましょう。以下の記事もご参考にして下さい。
健康を維持する
徐々に身体の変化が現れて、健康診断で指摘を受けたり、周りでも病気になった・入院したなどの話題が出てきたりする年齢かと思います。
40歳を超えると健康診断の検査項目も増えますので、より身体の不調を自覚することが多くなります。
健康診断の指摘はそのままにせず再検査となればすぐに受診し、経過観察などの項目でも日常生活を改善する良い機会と捉えて食事や運動など出来ることから始めていきましょう。
また、生命保険や医療保険などの加入内容を確認するのも忘れないようにしてください。若い頃に加入してそのままになっている方も多いかもしれませんが、ライフプランの変化に対応出来ているか確認しておきましょう。
大病などで働けなくなった時の備えや、十分な医療保障になっているかなどがポイントです。
以下の記事もご参考にして下さい。
50代の方がすべき対策
教育費の目途がつき、老後が段々身近に感じられてくる年代です。
また、子どもの結婚や両親の介護・相続など、向かい合わなければならない家族の課題が起こる頃でもあります。
ローンを返済する
返済終了予定が定年後になるローンがあれば、定年までに完済できるように繰り上げ返済計画を立てましょう。
しかし、繰り上げ返済を急ぎ過ぎて手元資金が少なくなり過ぎるのも考えものです。
両親の介護や子どもの結婚祝い、孫の出産祝いなど、定年までに必要になるかもしれないお金もありますので、家族の状況も踏まえたライフプランを立ててその上で計画的に返済していくことをお勧めします。
貯蓄をする
老後のための貯蓄に向けてラストスパートする期間です。
ですが、老後資金が心もとないからと焦って、リスクのある資産運用に飛びつくことはやめましょう。
若い頃から株や投資信託など様々な資産運用をしてきて慣れている人は、これまで通りのスタンスで運用をしていくのは問題ありませんが、急に思い立って金融機関から勧められるままにいきなり高額な資金で始めるのは無謀です。
リスクを軽減できる確定拠出年金やiDeCo、つみたてNISA、個人年金保険など、少額かつ税控除がある制度を使い、勉強しながら始めていくことが大事です。
また、生命保険でも投資信託を組み込んだ変額保険や、満期保険金があるタイプ、比較的金利の高い外貨で運用をするドル建て保険など貯蓄機能を兼ね備えた商品がありますので上手く活用しましょう。
60代の方がすべき対策
いよいよ老後に突入です。
とは言っても身体はまだまだ元気ですし、定年後も嘱託やアルバイトなど年金以外の収入も確保されている方が最近は多いようです。
家計を小さくまとめる
大抵の方は現役時代よりも収入が少なくなってしまいます。しかし、生活水準を急に引き下げるのは容易ではありません。
そのままではどんどん貯蓄を取り崩すことになるので、まずは家計簿をつけて生きていくための最低限の支出がいくらになるのかをしっかり把握し、出来る限りコンパクトな家計にしましょう。
具体的には、契約した当時のままになっている携帯電話やインターネットの料金プランを見直したり、生命保険や医療保険の加入内容を見直したりして固定費を削るのが手っ取り早いと思います。
「切り詰めなければ!」と考えると窮屈ですが、「1ヵ月間だけ最低いくらでやりくり出来るか!?」と、ゲーム感覚でやってみるのも面白いのではないでしょうか。
生活に大きな変化を起こさない
仕事をしている頃と違って自由時間が多くなると、無駄な出費がかさんだり、お酒好きな方は朝から飲んだりしてしまうなど、生活環境が一変してしまいがちです。
当然金銭的にも健康上も良くありませんので、夏休みの子供への指導のようですが、出来るだけ日々の生活を変えてしまわないようにしましょう。
老後破産に備える3種類の保険
ここまで、老後破産に備える方法について年代別に解説を加えてきました。前章でも度々登場してきましたが、老後破産に備える1つの手法として保険商品を利用するという選択肢もあります。ここでは、老後破産に備えて加入を検討したい3種類の保険について1つずつ解説していきたいと思います。
個人年金保険
個人年金保険とは、払い込んだ保険料を積み立て契約時に定めた年齢から年金形式でお金を受け取ることができるものです。年金の受け取り期間は、契約時に定めた5年・10年・15年など一定期間のものや、生存している限り受け取ることが出来る終身年金などがあります。
また、払い込む保険料は円建てやドル建てがあり、積み立てた保険料が運用されるものや、配当金が受け取れるプランもあります。
所定の条件を満たせば、払込期間中は個人年金保険料控除として所得税と住民税の所得控除を受けられるという大きなメリットもあります。
詳細については下記リンク先をご参照下さい。
養老保険
養老保険とは、端的に言えば「貯蓄と死亡保障を兼ね備えた保険」です。
一定期間の死亡保障と将来に向けた貯蓄機能をうまく兼ね備えた保険です。保険期間中に万が一のことが起こった場合には死亡保険金が、生存して満期を迎えたときには死亡保険金と同額の満期保険金が受け取れます。また、期間途中での解約時には解約返戻金を受け取れます。
同じく貯蓄機能を備えた個人年金保険の場合、保険料を払っている期間に亡くなった場合でもそれまでに支払った保険料に相当する金額が死亡保険金として支払われるだけですが、養老保険の場合は、満期保険金と同じ金額が死亡保険金として支払われる仕組みになっています。
詳細については下記リンク先をご参照下さい。
低解約返戻金型終身保険
終身保険とは死亡保障・高度障害保障などの保険機能が一生涯継続する商品です。
終身保険の商品の一つである「低解約返戻金型終身保険」は、保険料払込期間中の解約返戻金額を低く抑えることで通常の終身保険よりも保険料を抑えることが出来ます。
また、保険料払込期間が終わると解約返戻率が上がるため貯蓄性の高い保険となっています。
詳細については下記リンク先をご参照下さい。
老後破産に関するQ&A
老後破産は現状どの程度の割合で起きている?
2019年6月6日現在における高齢者世帯数は1487万8千世帯ですが、そのうちの14.3%、212万世帯は貯蓄ゼロ世帯となっており、老後破産の状況にあると思われます。
実に7世帯に1世帯が老後破産の状況となっている訳ですが、冒頭でも述べた通り老後破産予備軍とも言える貯蓄が300万円未満の高齢者世帯も合わせると、約3世帯に1世帯が老後破産になり得る状況となっています。
参照:厚生労働省 2019年国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/02.pdf
同上(各種世帯の所得等の状況)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa19/dl/03.pdf
老後破産の際に生活保護は受けられる?
年金だけでは生活出来ない状況となった場合にとれる手段として、生活保護費の受給申請があります。しかし、簡単に受給できるわけではありません。却下となる理由には以下のようなケースがあります。
- 持ち家や不動産、車などの売却できる資産がある
- 家族や親せきからの援助が見込める
- 年金収入が最低生活費よりも多い
他にも様々な要件がありますが、詳しくはお住いの市区町村の福祉事務所にお問い合わせ下さい。
●厚生労働省 生活保護制度:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/seikatuhogo/index.html
まとめ
今回は老後破産について解説してきました。自分は老後破産などするわけがないと考えていた人が思わぬ原因で老後破産に陥ってしまうということがご理解いただけたのではないでしょうか。
こうしたリスクに備える選択肢の1つとして、保険に加入する方法を提案させて頂きました。しかし、保険は商品数も非常に多く、ライフプランや他の金融資産の状況によって最適なものが変わってきます。ご自身にあった保険を見つけるために、まずは保険のプロであるファイナンシャルプランナーに相談してみましょう。