生命保険に加入する際には、「生命保険金受取人」(以下、受取人)を指定する必要がありますが、誰を指定することが出来るのか、あるいは指定するべきなのか等、お困りになったことがあるのではないでしょうか?
また、受取人を指定することによって、実際に保険金支払いが発生した際に課税される税金の違いについてもわからない点が多いのではないでしょうか?
ここでは、「受取人を誰にしたら良いのか」、そして「受取人によって何が変わるのか」など、受取人に関する基礎知識に加え、実際に受取人を指定した際の税金の違いや、受取人の変更方法および受取人を変更すべきケース等を解説していきます。そして文末には受取人に関するQ&Aも掲載しています。
生命保険の受取人とは?
まず初めに、「生命保険の受取人」とはどのような人を指すのかについて解説いたします。
生命保険は、「契約者」・「被保険者」および「受取人」の3者の関係によって成り立っています。
「契約者」とは生命保険会社と保険契約を結び、契約上の様々な権利(例えば、契約内容の変更等の請求)と義務(保険料を支払う等の義務)を持つ人の事を言います。このことから受取人を指定するのは契約者となります。
また、「被保険者」とは、保険(保障)がかけられている人のことを言い、その人の死亡・病気・ケガ等が保険(保障)の対象になります。
そして、「受取人」とは、保険金・給付金・年金などを受け取る人の事を言います。
つまり、「被保険者」に万が一のことが起こり、保険金支払いが発生した際に「受取人」がその保険金・給付金・年金などを受け取る権利を有しているということです。
生命保険の受取人に指定できる人
基本は配偶者と2親等以内の血縁者
生命保険の受取人は誰でもよいというわけではなく、生命保険を利用した犯罪や不正を防止するというモラルリスクの観点から、保険金受取人に指定できる人の範囲は決まっています。
基本的には「配偶者」と「2親等以内の血縁者(親族)」を指定することになります。
なお、受取人指定の順位は以下の通りとなっておりますのでご確認下さい。
■受取人指定の順位
- 配偶者
- 一親等(親・子)
- 二親等(祖父母・兄弟・姉妹・孫)
保険会社によっては、二親等以内の親族がいない場合には三親等以内の親族(叔父・叔母・甥・姪等)を指定できる場合もあります。
また、受取人を複数指定したい場合には、それぞれの受取り割合を設定して複数の受取人を指定することも可能です。
例えば、2人のお子様を受取人にしたい場合では、「長男50%・長女50%」といった形で指定をすることが出来ます。
こんなパターンは受取人にできる?
ここでは、上記の基本的な受取人以外(内縁関係・婚約関係・同性パートナー等)のケースについても説明しておきます。
生命保険は万が一の際に残された家族の生活を守ることが一般的な目的であり、内縁関係・婚姻関係、あるいは同性パートナーが死亡した場合などたとえ籍が入っていなくても、それまで生活を共にしてきた「家族」として保険金を受け取ることが出来る権利は十分にあります。
一方で、配偶者や二親等以内の親族(あるいは三親等以内の親族含む)を受取人にしている場合と異なり、各保険会社ではそれぞれ受取人としての一定基準を設けていることもありますので順番に解説していきます。
彼氏・彼女や婚約者の場合
「内縁関係」「婚約関係」については、「保険会社の一定の基準(※1)」をクリアすれば基本的には受取人として指定をすることが可能となります。
(※1)【一定の基準について (例)】
- お互いが独身であること(戸籍上の配偶者がいないこと)
- 2年以上生計を共にしている(同居している)(保険会社によって、1年以上~3年以上等年数の基準が異なります。)
- 一定期間内に結婚の予定があること(婚約の場合)
なお、「内縁関係」「婚約関係」の保険金受取人の基準については、各保険会社によって差異がありますので、必ず保険会社に確認することが大切です。
例えば、保険加入手続き時に保険会社所定の書類(生計を共にしている証明書等)や住民票の提出が必要になる保険会社もあります。また、保険金額の上限を定めている保険会社もありますので、保険金額の上限等についても保険会社に確認することをお勧めします。
一方、「指定代理請求人(※2)」については、当該パートナーを指定できない保険会社もありますので注意が必要です。
当然ながら、「内縁関係」「婚約関係」から入籍し婚姻関係になった場合にはその限りではありません。
(※2)指定代理請求人とは・・・。
被保険者や受取人が以下のような事情によって、保険金・給付金を請求できない場合、被保険者や受取人に代わって保険金・給付金等を請求する人を言います。基本的には、配偶者や3親等以内の親族の範囲内であらかじめ契約者が指定することになります。
- 事故や病気等で寝たきりの状態となり、意思表示が困難である場合等
- がん等に罹患した場合、その事実を医師から直接本人に告知されておらず、家族のみが知っている場合等
同性のパートナーの場合
2015年の「渋谷区パートナーシップ証明書発行」をきっかけに、同性パートナーを受取人として指定できる生命保険も増えてきています。2020年9月時点で、全国59の自治体でパートナーシップ制度を導入しています。
政令指定都市や各市区町村に加え、「茨城県」・「大阪府」については府県としてパートナーシップ制度を導入しています。
こうした流れから、このパートナーシップ制度に対応する保険会社も増え、受取人として指定できる条件の緩和等の動きが拡大しております。またこの動きは生命保険に限らず火災保険や自動車保険の損害保険業界にも広がってきています。
上記、「内縁関係」「婚約関係」のケースと同様に、各保険会社によって受取人としての一定の基準が設けられています。
また上記基準に加え、保険会社により提出書類が異なります。主に2人の「住民票」や「戸籍の写し」「自治体発行のパートナーシップ証明書」の提出が必要になります。(健康診断書提出を求められる保険会社もあります)
加えて、上述の指定代理請求人の指定についても、各保険会社によって条件が異なりますので注意が必要です。
お世話になった他人の場合
人生において、病気や怪我をしたときに看護や介護をしてくれた知人など、とてもお世話になった相手に保険金を受け取って欲しいと思うことがあるかもしれません。しかし残念ながらこういった方々は「第三者受取人」となり生命保険の受取人には指定できません。
保険金詐欺や保険金殺人等の犯罪防止の観点から、受取人として指定することが出来ないことになっているのです。
隠し子がいる場合
婚姻関係にない相手との間に子どもがいる場合、「認知」するかしないかによって保険金受取人に指定できるかどうかが決定します。「認知」とは、戸籍上の結婚をしていない男女間に生まれた子どもを自分の子どもであると法的に認めることを言います。
(一方、母子の間では、母親が結婚しているか否かに関わらず、母親から生まれたという事実があるだけで母子関係は認められます。)
法的には認知しなければただの他人となるため、お世話になった相手を保険金受取人にできないのと同じように認知していない子どもは保険金受取人にはなれません。
一方、認知をすると子供は認知した父親の戸籍上に記載され、法律上の親子関係が生じるため保険金受取人となることが可能となります。
生命保険の受取人と税金
ここでは、保険金にかかる税金について解説します。
生命保険にかかる税金は、「契約者」「被保険者」「受取人」の関係によって変わってきます。これらの関係によって下表のように「相続税」「贈与税」「所得税」のいずれかの課税対象になります。
保険契約者 | 被保険者 | 受取人 | 課税関係 |
---|---|---|---|
A | A | B | 相続税 |
A | B | C | 贈与税 |
A | B | A | 所得税 |
保険契約の契約関係については、大変重要となります。
保険金受取りの際に予想外の税金がかかってしまう事態にもなりかねませんから、契約関係については保険契約のタイミングから慎重に検討する必要があります。
保険加入後にも、被保険者以外は変更が可能ですので、「誰に保険金を残したいか」という契約の意図と合わせて、課税されることになる税金についても注意しておきましょう。
以下では、それぞれの税金がかかる場合について計算方法も含めて1つずつ解説を加えていきます。
相続税がかかる場合
ここでは、相続税がかかる場合について解説をしていきます。
上述の契約形態の通り、「契約者A」・「被保険者A」・「受取人B」のように、「契約者=被保険者」の場合、死亡保険金は「相続税」の対象になります。
こうした場合の死亡保険金は、残された遺族の生活保障という目的を持っており、「死亡保険金の非課税枠」が設けられています。
死亡保険金の非課税枠=500万円×法定相続人の数
また、「死亡保険金の非課税枠」以外に、相続税には基礎控除枠があります。基礎控除額の計算式は次の通りです。
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
(※)配偶者については1億6,000万円か配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までの非課税枠が設けられています。多額な遺産がある場合などは特に、この配偶者特別控除を活用すると納税額を軽減することが可能です。
以下では、具体的なケースを設定してどのように相続税が課税されることになるのか見ていくことにしましょう。
●具体例
家族構成: 夫・妻・子2人
契約者=被保険者=夫 受取人=妻
死亡保険金額:3,000万円
夫が亡くなった場合の法定相続人は、「妻・子・子」の3名となりますから、
500万円×3名(法定相続人の数)=1,500万円は、非課税で受け取ることが可能となります。
また相続税の基礎控除として、
3,000万円+(600万円×3名)=4,800万円が、相続税の非課税額として計算されます。
したがってこの場合は、他に相続遺産が無ければ3,000万円の死亡保険金額は非課税で受け取ることが出来ます。
遺産総額については生前にもある程度試算をすることが可能ですので、おおよその相続税納税額の計算と相続税対策を事前に講じることが大変重要となります。
贈与税がかかる場合
「契約者A」・「被保険者B」・「受取人C」のように、契約者・被保険者・受取人が全て異なるケースでは、贈与税の対象になります。贈与税110万円の基礎控除を活用した生前贈与の一環で利用されることがあります。
贈与税がかかる契約形態の場合、死亡保険金から贈与税の基礎控除である110万円を差し引いた金額が贈与税の課税対象になります。贈与税の場合、死亡保険金の非課税枠は設けられていない点に注意が必要になります。
課税対象額=死亡保険金-(基礎控除額110万円)
例えば死亡保険金3,000万円の場合には、贈与税の基礎控除110万円を引いた2,890万円が贈与税の課税対象となります。
契約形態が変わっただけで、相続税にあるような基礎控除や特別控除を受けることが出来なくなるため十分に注意が必要です。
所得税がかかる場合
「契約者A」・「被保険者B」・「受取人A」のように、「契約者=受取人」の場合、死亡保険金は「所得税」の対象になります。
所得税がかかる契約形態の場合、死亡保険金額から払込保険料総額を引き、さらに特別控除50万円を引いた金額に対して1/2を乗じた額が課税対象になります。
課税対象額 =(死亡保険金額-払込保険料総額-特別控除50万円)×1/2
死亡保険金額3,000万円、払込保険料総額2,500万円の場合で試算をしますと、
(3,000万円-2,500万円-50万円)×1/2 =225万円
となりますから、所得税の課税対象金額は225万円となります。
受け取る保険金の課税対象額を少なくする方法
上述の解説のように、生命保険は「契約者」「被保険者」「受取人」の関係によって死亡保険金を受け取る際の税金が異なります。
税法上、相続税には死亡保険金の非課税枠や相続税の基礎控除などがあるため、贈与税等に比べて課税対象額を少なくすることが可能です。
一概には言えませんが、残された家族へより大きな資産を残したい場合には、「契約者=被保険者」の契約形態にて、「法定相続人の非課税枠」の活用と、配偶者特別控除の活用を優先することが賢明と考えます。
一方で、生命保険の契約形態によって、課税対象額を調整することや保険金を渡したい人を指定することで、遺志として生命保険を活用することが出来る点も大変重要になってきます。
例えば、少額でも死亡保険金を「お世話になった〇〇に渡したい。」など、死亡保険金の受取人を指定するケースや、生前贈与の一環では、贈与税110万円の非課税枠を上手に活用することも検討したいところです。
また、保険種類の特性および死亡保険金と払込保険料総額との兼ね合いも検討しつつ、「契約者=受取人」の契約形態にて一時所得の税制メリットを活かす方法も重要です。
上述のケースを参考に、「保険加入の目的や死亡保険金受取りの際まで」を考慮した上で、契約形態を検討することがとても大切になります。
生命保険の受取人を変更すべき3つの場合
ここでは、受取人を変更すべき3つの場合について解説をします。
生命保険金は、被保険者の「相続財産として」受取人に支払われるのではなく、【契約当初から受取人の固有の権利】として受け取るお金となります。
以下のようなケースでは、受取人を変更する必要性が非常に高く、トラブルの元にもなりかねないケースとなりますので十分に注意をして下さい。
離婚する場合受取人は親か子どもに
離婚をしたケースでは、夫の保険契約に指定されていた受取人が元妻であった場合、離婚により親族関係は解消になり元妻は法定相続人には含まれませんが、離婚前に加入していた生命保険の保険金に関する受取人の権利は変更しなければ有効のまま存続します。
その後に、夫が亡くなった場合には、受取人である元妻に死亡保険金受取人としての権利があり死亡保険金が支払われることになります。これは、上述の通り「契約当初から受取人の固有の権利」であるからです。
離婚が決まった際にはすみやかに、子がいる場合には子に、いない場合には親など二親等内の親族に受取人を変更しておくことをお勧めします。
結婚する場合受取人は配偶者か子どもに
独身時代に加入していた生命保険については受取人を両親に指定しているケースが多いです。
結婚後、夫に「万が一」があった際に当該保険の受取人が両親のままになっていると、当然の事ながら配偶者である妻や子に死亡保険金は支払われません。
故人の遺志としては残された家族のための生命保険であったはずですから、こうした問題に直面しないためにも結婚後は速やかに配偶者あるいは子に受取人を変更をしておくことが大変重要になります。
受取人が死亡した場合
受取人が亡くなった場合にもすみやかに受取人変更の手続きをしておくことが重要です。
この手続きをしておくことで、保険契約の被保険者が死亡した際にも死亡保険金請求手続きが煩雑にならずに済みますし、遺族間などのトラブル防止にもなります。
こうしたケースで死亡保険金を受け取ることが出来るのは、被保険者の法定相続人ではなく、「受取人の法定相続人」となりますのでご注意ください。
例えば、契約者=被保険者=夫 受取人=妻のケースで、夫よりも先に妻が亡くなっているとき、子どもがいれば子どもが受取人になりますが、子どもがいないケースでは夫の法定相続人ではなく、妻の法定相続人が死亡保険金を受け取ることになります。
妻の両親がいる場合には、両親が受取人となり、いない場合には妻の兄弟姉妹が受取人となります。
生命保険の受取人の変更方法
ここでは、受取人の変更方法について解説をします。
受取人は、「いつでも」・「何度でも」・「遺言によっても」変更が出来ます。また、受取人変更の権利は契約者にありますので、受取人の承諾は必要ありません。(被保険者が契約者と異なる場合は、被保険者の同意が必要になります。)
受取人の変更手続きには、保険会社指定の受取人変更書類と一般的には公的証明書および保険証券の提出が必要になります。
また、新たな受取人が記載された保険証券発行を希望する場合には、保険証券再発行の依頼を同時に進めることが可能です。
また、珍しいケースかとは思いますが、「遺言によっても」変更ができます。
ただし、遺言による受取人変更の場合、遺言書の形式が法律上不適切だった場合には変更が出来ないケースもありますし、遺言の有効性の証明などにも時間を要する場合もあり、死亡保険金支払いが遅れることも考えられます。
生命保険は、長期にわたり加入することが一般的ですから、その時々の状況に合わせて受取人の変更も検討していく必要があります。
生命保険の受取人に関するQ&A
生命保険の受取人がいない場合は?
受取人が先に亡くなっていて、その法定相続人もいない場合、亡くなった方の財産は最終的に国庫に帰属することになります。
裁判所が選定をした相続財産管理人によって、亡くなった方の相続財産と合わせて整理し、国庫に帰属する手続きを取ります。
その他、遺言書等によって、自身が亡くなった後に慈善団体等に寄付するなどのケースもあります。
また、主に信託銀行をはじめ銀行・信用金庫などのサービスである「遺言信託」を利用することもできます。
生命保険の受取人が本人になる場合はあるの?
生命保険の対象となっている本人(被保険者)が保険金や給付金の受取人になる場合について解説しますと、これは「死亡保障保険等」と「医療保険やがん保険等」の場合によって異なってきます。
まず死亡保障保険等では、契約形態にかかわらず本人(被保険者)は死亡保険金の受取人にはなれません。ただ、養老保険や年金保険等については、死亡保険金の受取人にはなれませんが満期保険金や年金の受取人になることはできます。
次に、「医療保険やがん保険等」についてですが、病気やけがで入院・手術等した場合の給付金については、被保険者本人が受取人として給付金を受け取ることが出来ます。
受取人が相続放棄をした場合は課税対象になる?
生命保険の死亡保険金は、「受取人固有の財産」となります。ですから、相続を放棄しても死亡保険金を受け取ることが可能です。
ただし、この死亡保険金は、税制上「みなし相続財産」として相続税の課税対象となります。
そして、受取人が相続を放棄した場合には、相続人としてみなされないため生命保険の非課税金額「500万円×法定相続人数」の適用を受けることが出来ません。
(相続放棄した本人は非課税の適用を受けることは出来ませんが、非課税金額を算定する際には、法定相続人の人数に含めて計算をします。)
一方、相続税の基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人数」は相続放棄をした場合でも適用となります。死亡保険金が基礎控除額の範囲内であり、他に相続財産が無ければ、相続税はかかりません。
まとめ
ここまで、生命保険の受取人について、その概要からスタートし、受取人に指定できる要件や税金面について解説をして参りました。
また、保険金の受取人を決める際には、契約形態によって課税される税金が異なってくる点や、婚姻や離婚等ライフイベントの変化があった際には、すみやかに受取人の変更をしておくことの重要性についてもご理解頂けたのではないでしょうか?
そして最も大切なことは、「生命保険が契約者の遺志に基づき残された家族に支払われること」です。
生命保険の受け取りの際に、不要な争いを起こさないように正しく受取人を指定しておくことが重要となります。
保険の見直しや保険契約手続き時に不安がある場合には、保険税務にも詳しい「保険のプロ」であるファイナンシャル・プランナー(FP)に相談してみてはいかがでしょうか?