銀行の窓口や保険のセールスパーソンから「ドル建て保険」という保険への加入をすすめられたことがある人も多いと思います。
発売以来、契約者数は右肩上がりで伸びていて、今では保険会社の主力商品の一つと位置付けられています。
ドル建て保険は、万が一の保障を持ちながら貯蓄機能も享受できるため、貯蓄性商品としても注目されています。このようにとても魅力的な保険商品ですが、ドル建て保険には為替リスクなどの注意点があります。
今回は、ドル建て保険の仕組みや加入前に知っておきたい注意点などを解説します。
ドル建て保険とは?
ドル建て保険とは、万が一の際の死亡保険金・保険料・解約返戻金・年金等が【ドル】で設定されている保険商品のことを言います。ドル建て保険という名前から、アメリカやオーストラリアで作られた外国の商品と思われがちですが、日本の保険会社が作った日本の保険商品であり、日本の保険会社が取り扱いをしています。
現在、保険会社で販売されているドル建て保険は、アメリカドル(米ドル)とオーストラリアドル(豪ドル)で運用されている商品がほとんどです。
ドル建ての意味
「ドル建て」というと今では保険が思い浮かぶほど有名になったドル建て保険ですが、そもそも「ドル建て」とはどういうことなのでしょうか。
以下に具体的な例でご説明します。
米国のA商品(100ドル)を日本から購入する場合に、米国の通貨で100ドル払えば購入できるわけです。
この時の為替レートが1ドル=100円と仮定した場合、A商品は円で10,000円ということになります。
A商品を100ドルというドル貨で取引することを「ドル建てで購入する」ということになります。
ドル建て保険は、加入者が支払う保険料や死亡保険金、解約返戻金がドル貨で設定されています。
それぞれの支払いのタイミングで、そのドルに対しての円を支払うことになります。
(例)毎月の保険料が100ドルで保険金は50,000ドルの死亡保障(ドル建て保険)
また、保険だけでなく投資信託や株、FX等でもドル建ての金融商品は多く存在しております。
ドル建て保険の種類
ドル建て保険と言っても異なるタイプの商品がいくつかあり、加入する目的によっては本来のニーズを満たしていないことも考えられます。
ここではドル建て保険の種類を紹介します。
終身保険
ドル建て保険の中でも多くの保険会社が取り扱っているのが「ドル建て終身保険」です。
「身が終わるまで保障」しているので終身保険と言います。
一生涯の保障でありながら途中で解約された際には解約返戻金を受け取ることができます。ただし、解約返戻金の額は経過年数等により大きく異なります。特に契約後短期間で解約された場合は全くないかあってもごくわずかとなることがほとんどです。
学資保険
学資保険は、親に万が一があった際には以降の保険料が免除されるという一種の保障を持ちながら、満期保険金を高校や大学の費用に充当することを目的としています。ドル建て保険では「学資保険」という保険種類ではなく、終身保険や養老保険を用いて「学資プラン」として扱っています。
万が一の際には死亡保険金で、生存されていた場合には満期保険金や解約返戻金で教育資金を確保することができます。
養老保険
養老保険は「老いを養う」保険として、決められた期間(例えば、65歳)まで保険料を納め、保険期間が満了すると満期保険金を一時金や年金で受け取るという仕組みです。払込期間中に万が一あった場合には契約時に定めた死亡保険金が支払われます。
終身保険と混合されがちですが、保険期間が満了すると満期保険金を受け取り、その後の保障はなくなってしまうので注意が必要です。
個人年金保険
年金保険もドル建てで有名な保険商品の一つです。
貯蓄タイプの保険ではありますが、「支払った保険料以上の死亡保障がない」という点が前述の保険商品とは大きな違いです。
また、所得税・住民税の生命保険料控除の対象となります。終身保険・学資保険・養老保険が「一般生命保険料控除」となるのに対して個人年金保険は「個人年金保険料控除」と別枠となりますので控除の対象を増やしたい人にも人気です。
こちらも同じように円建てよりも貯蓄率が高いこともあり、ドル建てで扱っている保険会社があります。
ドル建て保険 3つのメリット
保険料が低めに抑えられている
1つ目のメリットは、保険料が低めに抑えられていることが挙げられます。
保険会社が契約者に約束している保険の運用利回りのことを予定利率と言いますが、現在の円建ての積立型商品に比べてドル建て保険は通常予定利率が高く設定されています。これは、アメリカやオーストラリアが日本に比べて市場金利が高いためです。
ドル建て保険は円建て商品に比べて高い予定利率であるため、同内容の保険に加入する場合、少ない保険料(ドル)で保障(ドル)を得ることが出来ます。このことから特定疾病保障など死亡保障に比べ保険料が高い保障を準備する際には円建て商品よりも少ない保険料で加入することが出来るので人気があります。
貯蓄性が高い
2つ目のメリットは、貯蓄性が高いことが挙げられます。
一般的に円建ての終身保険や養老保険に比べて高い予定利率で運用されますので貯蓄性にも優れていると言えます。
ドルでの利率となりますのでドルを殖やしていく目的で加入すると円建ての他の商品より優位性を感じられるでしょう。
将来の資金積み立てとして資産を増やす1つの手段として検討し選択される方が増えています。
ただし、ドル建て保険はドルで運用していますが、円で支払い円で受け取るケースが多く、為替リスク(為替差損)があるため、ドルの利回りのパーセンテージだけでは単純に有利だと判断できませんので注意が必要です。
為替差益が出る可能性がある
3つ目のメリットは、為替差益が出る可能性があることが挙げられます。
死亡保険金や解約返戻金を受け取る際に円安傾向になった場合、為替差益により、より多くの額を受け取ることが期待できるのです。
例えば、1ドル=100円の時に加入し、満期の際に1ドル=120円だとすると満期保険金1ドルあたり20円の為替差益が得られます。
満期保険金が10万ドルの商品でしたら、10万×20円=200万円(為替差益)となります。
ドル建て保険 3つのデメリット
これまでドル建て保険のメリットについて触れてきましたが、ドル建て保険にはデメリットもあります。
中でも特に強調されるのが「為替リスクがある」ということです。為替相場の変動により、死亡保険金や解約返戻金が少なくなり損失が生じる可能性があります。為替リスクが契約者や受取人に帰属しているところが重要なポイントです。
為替相場によって保険料が高くなる可能性がある
ドル建て保険の保険料はドルなので支払うドルでの保険料は変わりませんが、為替相場が円安傾向になると円で支払う場合の保険料が高くなります。
【保険料が100ドルの場合】
・為替レートが100円の場合 100ドル × 100円 = 10,000円
↓(円安)
・為替レートが110円の場合 100ドル × 110円 = 11,000円
契約者が想定していた為替レートより円安傾向になった場合に保険料の負担が多くなり、また将来的に支払う保険料(円)の累計保険料も多くなります。
一方、為替相場が円高傾向になると円で支払う場合の保険料は安くなります。
【保険料が100ドルの場合】
・為替レートが100円の場合 100ドル × 100円 = 10,000円
↓(円高)
・為替レートが90円の場合 100ドル × 90円 = 9,000円
保険料は、ドルで支払う商品がほとんどです。通常私たちは毎回の保険料を円で支払いますが、円入金特約という特約により保険会社がドルに換えて保険料に充当されます。その際、保険会社所定の為替手数料が掛かります。
一時払保険料や前納保険料(※)の場合、保有しているドルでも支払うことができる保険会社の商品もあります。
※前納保険料・・・将来の保険料を前以て納めることを言います。納める日の為替レートで支払うことが出来ます。
「為替リスクがある!」と心配される方もいらっしゃいますが、「為替によっては有利にも不利にもなるリスクがある」と理解することが大事です。
為替手数料がかかる
2つ目のデメリットとして、為替手数料がかかることが挙げられます。
保険料を支払ったり、死亡保険金等を受け取る際には円⇄ドルの手数料がかかっています。
海外旅行などで外国の通貨に換えたり、帰国して円に戻したりするときに掛かる手数料と同じイメージです。
- 保険料を円で支払う際に円をドルに換える手数料
- 死亡保険金・解約返戻金等を円で受け取る際にドルを円に換える手数料
これらの為替手数料は、保険会社によって異なりますので注意が必要です。
為替相場によって損失が出る可能性がある
3つ目のデメリットとして、為替相場によって損失が出る可能性があることが挙げられます。
前述の為替差益と逆の場合、つまり死亡保険金や解約返戻金を受け取る際に円高傾向になった際には、為替差損により受け取る額が思っていたより少なくなってしまう可能性があります。
ちなみに過去5年で見ると101円台~117円台(2021年10月24日)と16円ほどの変動がありました。
また、直近のコロナショックにより一時的に101円台に入りましたが比較的すぐに110円台に戻し限定的な円高となりました。しかし、ドル建て保険は長期的な運用となりますので毎日の為替相場の動向よりも長期的に見守っていくことが大事です。
ドル建て保険が向いている人の特徴3選!
それでは、どのような人がドル建て保険に向いているのか特徴を見てみましょう。
資産運用を主目的としている人
ドル建て保険加入の目的を資産運用のためとしている方は、以下の2点に着目されています。ただし、変額保険のように積極的に株式投資等をして資産運用する商品ではないことをご理解ください。
- ドル建て保険商品の特徴である高い予定利率による解約返戻金の運用
- 満期保険金や解約返戻金を受け取る際の為替差益
また、ドル建て保険は加入してすぐに利益が出たからといって解約するような短期的な投資商品ではありません。
長期的にドルを積み立てていきながら、保険会社による運用でドルを殖やします。
積み立てて殖やしたドルは為替変動の影響を大きく受けますので、余裕をもってドルを円に換えるタイミングを見極めることが必要です。
資金に余裕がある人
ドル建て保険の保険料の払込期間中は為替相場の影響により円で支払う保険料が毎回変動します。上述の通り、為替相場が円安傾向になると円で支払う保険料が高くなります。保険料が支払えなくなってしまい解約なんてことになりますと、大きな損失となりかねません。保険料が高くなっても許容できる余裕が必要です。
加入する際には、過去の為替相場の動向を確認しながら無理のない範囲で保険料や払込期間を設定することが大切です。
また、一時払商品において円で支払う場合には、まとまった保険料となるため契約時の為替レートと積立利率の推移を確認し、納得できるタイミングで手続きしましょう。
ドル資産のまま保有し、使用する人
ドル建て保険はドルで運用されていますので、将来受け取る保険金・年金なども通常はドルで設定されています。
どうしても為替変動に目が行きがちですが、必ずドルを円に換えて満期保険金等を受け取らなければいけないわけではありません。
ドルで受け取れば、為替相場の影響を受けずに済むのです。
最近では解約返戻金や満期保険金を、お子様が海外留学される際の費用や外国株式の購入費用に充てる方も出てきています。
ドル建て保険加入前に確認したい4つのポイント
ここまでドル建て保険のメリット・デメリット、そして加入すべき方の特徴について解説しました。
ここまでの解説を受けて、ドル建て保険への加入を検討されている方に加入前に確認したいポイントをまとめました。
為替手数料の水準は適当か
ドル建て保険の場合、保険料や保険金、解約返戻金はドルで設定されていますので「円をドルに換える、ドルを円に換える」必要性が出てきます。その際に、掛かる為替手数料のコストは1銭~1円と保険会社によって異なります。加入前に必ず確認しましょう。
為替相場が円高になっているか
保険料を円で支払う場合はその時の為替レートで保険料が決まります。
特に年払・一時払など大きな保険料を支払う際は、やはり円高傾向の時期が加入者には有利です。
保険料を支払う前に為替相場を確認し、納得できるタイミングで保険料を支払うようにしましょう。
ドル据置は可能か
ドル据置とは、保険期間の満了時に、すぐに満期保険金を受け取らずにドルのまま保険会社に据え置いて運用してもらうことを言います。
ドル建て保険は円建て保険に比べて通常予定利率が高いため、据え置き期間中も高い運用効果が期待できます。
長期間据え置きながら高い利率にて運用することで、為替リスクの軽減を図ることが可能です。
ドル建てでの解約返戻率は適当か
ドル建て保険の解約返戻金はドルで設定されています。
解約返戻金を円で受け取る場合には、解約日の為替レートでドルを円に換えて計算され、受け取ることになります。
現在は、解約返戻金は円でもドルでも受け取れる保険会社が多いので、円高傾向でしたら一旦ドルで受け取りタイミングをみて円に換えることも出来ます。
『あと15年後に解約して子供の大学の入学金に充てたい』というような教育資金をドル建て保険で準備する方もいますが、解約返戻金を使用するタイミングが決まっている方の場合、そのタイミングが為替変動により契約者が予定していたよりも円高傾向に動いていた場合、円転すると準備するべき金額に不足がでることもあります。
解約返戻金を受け取るタイミングは時間的な余裕を持たせることが重要です。
まとめ
これまでご説明させていただいたようにドル建て保険には、為替・予定利率など聞きなれないキーワードがたくさんあります。
金融商品として一方的に運用面でのメリットを主張する人もいれば、為替リスクのデメリットばかりを指摘する方もいらっしゃいます。
しかしながらドル建て保険は、契約者や契約者の家族の未来に向けての保障と、ドル建ての貯蓄による老後資金などの資金づくりのための金融商品の両面の特性を兼ね備えた【保険商品】です。
加入を検討する際には、解約返戻金の返戻率や為替差益だけに注目するのではなく、為替リスクを考慮しながら疾病、保障、老後資金、相続対策などライフステージに合ったドル建て保険に加入できるようサポートしてくれるファイナンシャルプランナーに相談すると良いでしょう。