長期入院に対応した医療保険の必要性

医療保険

医療技術の進歩や医療制度の変化により、入院日数は減少傾向にあります。それでは長期の入院に備える医療保険の保障は本当に必要ないのでしょうか。実際の入院にかかる日数のデータや、医療保険の特徴などを見ながら考えてみましょう。

長期入院する人は少ない

「最近は長く入院させてくれないらしいね」。

こんな話をよく聞きませんか。

事実、厚生労働省の「患者調査」などの統計を見ても、入院の平均在院日数は減少してきています。

加えて特に大都市近郊では、人口1人当たりの病床数(入院に必要なベッド数)が不足しており、その確保のためにできるだけ入院日数を少なくしようとしている状況も影響しているようです。

平均の入院日数

では、実際入院日数はどれくらいなのかをデータで見てみましょう。

下の表は、厚生労働省発表の「患者調査/平成29年」を基に、生命保険文化センターがまとめた「傷病別・年齢階級別平均在院日数」です。

すべての傷病かつ全年齢での平均入院日数はおよそ29.3日となっています。

主な傷病別の入院日数

データからは、原因となった病気やけがによって必要な入院日数が異なることが分かります。

加えて、年齢によっても異なり、一般的に年齢の高い方の入院日数が長くなっています。

傷病別・年齢階級別平均在院日数

(単位:日)

主な傷病 総数 男性 女性 0~14歳 15~34歳 35~64歳 65歳
以上
75歳
以上
全体 29.3 26.9 31.7 7.4 11.1 21.9 37.6 43.6
結核 54.1 49.4 60.8 2.0 36.5 45.4 58.5 61.6
ウイルス性肝炎 21.2 15.1 27.0 5.2 10.7 9.7 38.2 56.1
胃の悪性新生物 19.2 17.1 24.3 8.1 12.5 13.0 20.8 24.0
結腸及び直腸の悪性新生物 15.7 15.2 16.3 8.8 12.7 11.7 17.1 20.5
肝及び肝内胆管の悪性新生物 16.9 16.0 19.3 15.7 36.5 13.0 17.7 19.8
気管、気管支及び肺の悪性新生物 16.3 16.3 16.3 12.5 9.7 13.3 17.1 19.3
糖尿病 33.3 26.7 42.5 10.9 13.2 16.3 45.4 62.1
血管性及び詳細不明の認知症 349.2 271.9 408.7 284.1 349.8 340.0
統合失調症等 531.8 554.8 513.7 167.2 106.5 301.6 1,210.6 1,692.2
気分(感情)障害 113.9 108.2 117.1 75.7 47.1 74.9 167.0 196.0
アルツハイマー病 252.1 237.8 261.2 143.0 254.9 257.1
高血圧性疾患 33.7 24.8 40.4 7.7 13.6 15.3 39.5 47.8
心疾患 19.3 13.5 28.3 11.8 10.0 9.0 22.2 28.8
脳血管疾患 78.2 67.3 90.7 12.3 25.6 45.6 86.7 98.9
肺炎 27.3 27.3 27.2 5.1 8.2 24.0 33.4 35.3
肝疾患 22.9 22.2 23.8 8.8 10.3 16.5 27.7 31.9
骨折 37.2 28.2 42.2 6.1 11.3 20.7 45.6 49.5

注)
1. 2017年9月1日~30日に退院した者を対象としたもの。
2. 総数には、年齢不詳を含む。
3. 統合失調症には、統合失調症型障害と妄想性障害を含む。
4. 気分(感情)障害には、躁うつ病を含む。
5. 心疾患は高血圧性のものを除く。

参照:(公財)生命保険文化センター 「入院した場合、入院日数は何日くらい?」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1212.html

胃がん(胃の悪性新生物)のケースでは、35歳~64歳の患者で13.0日、65歳以上で20.8日、75歳以上で24.0日となっています。

骨折の場合、年齢による差がより明確で、35歳~64歳の患者で20.7日、65歳以上で45.6日、75歳以上で49.5日となっています。

長期入院に備える保障について考える

それでも一部の疾患を除けば、「平均で2か月を超える入院はないのでは」という感じもしますよね。

また入院が長くなっても、「公的保険でカバーされるから大丈夫」という声も聞こえてきそうです。

そこで長期入院のリスクに対して、知っておくべきポイントについて見ていきましょう。

公的医療制度の存在

まずは公的医療保険制度について。

ご存じの通り、一般の方では医療費の自己負担は3割です。また70歳~74歳は2割、後期高齢者は1割となります。(ただし、現役並みの所得がある70歳以上の方は3割負担、一定以上の所得がある75歳以上の方等は2割負担)

しかも入院や手術などで多額の医療費が掛かった場合には「高額療養費制度」があります。

公的医療保険制度に加入している場合、被保険者は1か月あたりに負担すべき金額の上限が決まっています。

月初めから月末までに医療機関等に支払った医療費が上限金額を超えると、その超えた金額を支給してくれます。

この制度を高額療養費制度と言います(制度の詳細はこちらのリンクを参照。 厚生労働省保険局『高額療養費制度を利用される皆様へ』)。

30代のご夫婦で奥様は専業主婦、お子様が二人いる家庭を例に考えてみましょう。

ご主人の年収が600万円として、ある月に世帯全体で支払った医療費が50万円だったとします。

この場合、82,430円<計算式:80,100円+(500,000 – 267,000)x 1%>がその月に世帯で支払う医療費の上限となります。

また、会社員や公務員の方の場合、業務外の原因で病気・ケガとなり入院した時には、有給休暇を使い切ってしまった場合でも「傷病手当金」が支払われます。

通常は受給開始から最長で1年6か月、給与の約3分の2の金額が支払われます。

ただし、自営業・フリーランスの方にはこの制度がありませんので注意が必要です。

差額ベッド代

万能に思える高額療養費制度ですが、対象にならないものもあります。

「入院時の食事代(病院食)」と「差額ベッド代」です。

特に差額ベッド代は、金額が大きくなるケースもあるので良く理解しておきましょう。

大部屋での入院にはかかりませんが、個室や4人部屋までの少人数病室の場合は、1日につき差額ベッド代を支払う必要があります。

差額ベッド代は3割負担や高額療養費の対象外となり、完全に自己負担です。

厚生労働省の調査(第370回中央社会保険医療協議会・主な選定医療に係る報告状況)によると、個室の差額ベッド代の平均は7,797円/日(平成28年7月1日現在)で、国立がん研究センター中央病院では108,000円/日という個室もあります(同病院ホームページより。平成31年2月現在)。

健康な時には「入院は大部屋でも構わない」と思っても、実際に入院をするとなると「やっぱり個室に入りたい」と考えるお客様が多くいらっしゃいます。

医療保険を検討する場合は、このあたりも頭に入れて検討したいですね。

長期入院が必要な主な病気

上の表で見た通り、とりわけ脳血管疾患や精神疾患などの場合、入院が長期化する傾向があります。

こうした疾病では、入院を繰り返すケースもあり、入院日数のことを意識した保険選びが重要になるでしょう。

医療保険の入院日数は何日にするべきか?

それでは加入する医療保険の入院日数は何日にするのが良いのでしょうか?

一概に何日が良いという結論は下せませんが、最近では、虫垂炎や軽度の骨折などの入院では1回の入院日数が60日限度となっていても、がん・心疾患・脳血管疾患などの長期化の恐れがある入院では無制限とする特約を用意した医療保険も増えてきました。

このような選択肢を考えてみるのも良いかと思います。

まとめ

以上、長期入院のリスクについて知っておくべきこと、それを踏まえた上で医療保険の検討にあたって重要な事柄について考察してきました。

入院が長くなる疾病に対しては、入院費の負担は医療保険でカバーできますので、特定の疾病に対して日数が無制限になる保障の検討をお勧めします。

一方で、このようなケースでは働けなくなって収入が無くなってしまうリスクについても考えておく必要が出てきます。

特に子育て世代の方、住宅ローンの支払いがある方にとっては大きな課題です。

医療保険を検討する場合には、そうした保障とのバランスも考えることが重要です。

是非信用あるプロのプランナーに相談して、ムダなくモレの無い保障を考えていただきたいと思います。

執筆者

速水 秀樹(ファイナンシャルプランナー)

1996年大学卒業後、繊維・化学メーカーに就職。ライフサイエンス関係の商品を海外展開する職務に従事。その頃「将来は海外での生活」を夢見るが、実母と祖母のダブル介護に直面し、サラリーマン生活に終止符。この時大きな人生の岐路に立ち、ライフプランニングと出会う。その重要性に気付き、自身がファイナンシャルプランナーへ。介護の経験、豊富な知識を生かし「お客様に誠実に寄り添い、本当の声を聴く」をモットーに活動中である。学生時代から登山が趣味。山登りで学ぶ先を読む力が、相談業務にも生かされている。執筆は、介護に関する記事も。
■保持資格:2級ファイナンシャル・プランニング技能士AFP資格
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