がん保険の加入を検討する際、その必要性について疑問を抱かれる方もいらっしゃるかと思います。
ここでは、がん保険は「いらない」と言われる理由と反対に「必要」とされる理由について、それぞれ解説をしていきます。また、がん保険に加入をする際の判断基準についても詳しくお伝えをしていきたいと思います。
がん保険が「いらない」と言われる理由
医療保険に加入しているから「がん保険はいらない」とお考えになられる方もいらっしゃると思います。
そのように考えられるのは、主に以下のような3つの理由があると考えられます。
公的医療保険制度の充実
高額療養費制度などにより入院等の際の自己負担額が一定額に抑えられるため、がん保険は不要と考える方もいらっしゃいます。
この制度は、同一世帯(協会けんぽに加入している被保険者とその被扶養者)で、同じ月に医療機関(複数でも可)で支払った医療費の総額(公的医療保険の対象となる治療)が自己負担限度額を超えた場合、超えた医療費部分が払い戻される制度です。
参照:全国健康保険協会〔協会けんぽ〕:高額な医療費を支払ったとき(高額療養費)
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/sb3030/r150/
医療技術の進歩による入院期間の短縮
また、昨今の医療技術の進歩等によりがん治療における入院日数が短縮されており、仮にがんにり患した場合でも医療保険に加入していれば十分と考える意見もあります。
昨今の入院日数は、厚生労働省の調査「令和5年度 患者調査の概況」によると、退院患者の在院日数は、病院「0-14日」68.4%、「15-30日」15.5%、一般診療所「0-14日」84.3%、「15-30日」7.1%となっており、多くの場合において短期入院となっています。
がん以外の病気への備え
続いて、がん保険についてはほとんどの商品が「がん」に特化した保障となり、一部商品を除いてがん以外の疾病、例えば心疾患や脳血管疾病等にり患した場合には保障されません。
保険料負担にも配慮しながらがん以外の病気の備えもしていく必要性を考えると、保障の充実と保険料負担のバランスを考慮していく必要があります。
参照:厚生労働省「令和5年度 患者調査の概況 退院患者の平均在院日数等」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/23/dl/heikin.pdf
がん保険が必要とされる理由
一方で、「やっぱり、がん保険は必要」と考え、その必要性を主張する意見もあります。
その理由については、主に以下の3つの理由が考えられます。
治療費以外の負担
がんにり患して入院や手術を受ける際、その入院費や手術費以外にも思いの外大きな出費となることも想定されます。
例えば、前述の高額療養費制度でカバーできない費用として差額ベッド代や入院時食事代の一部負担、通院時の交通費や入院に際しての日用品代などがあり、予想外に高額な費用となることもあります。
収入減少への備え
特に自営業者やフリーランスの方は、給与所得者のように有給休暇や傷病手当金などが無いことから、がんの治療中における収入減少に備える必要性が他と比べて大きくなる傾向があります。
また、がんの種類によっては入院・手術後も長期にわたり治療が必要なケースや、退院後早期に仕事に復帰できない場合もありますので、そうした際の収入減に備えるという意味ではがん保険の必要性は高いと言えます。
家族への経済的影響
家族がいる場合、治療費以外にも生活費や教育費、住宅ローン等の返済など家族に負担をかける可能性もあります。
大きな手術や長期の治療が必要な場合には、特に日々の生活にも大きな影響を与えてしまうことになります。
上述の高額療養費制度でカバーできない費用も長期の治療を余儀なくされた場合にはとても大きな負担になります。
がん保険の保障内容と公的医療保険制度の比較
ここでは、がん保険の主な保障内容と公的医療保険制度との違いなどを比較し、それぞれのメリット・デメリットについて解説をしていきます。
公的医療保険制度をよく理解し、過不足なくがんの保障を持つことがとても大切になりますのでしっかりと確認をしてみて下さい。
診断給付金と高額療養費制度
がん保険では、がんと診断された場合に「診断給付金(一時金)」の給付を受けることができる保障が付加されていれば、り患時にまとまったお金を受取ることができます。治療の初期段階で治療内容や入院日数に関わらず受け取れるため、様々な用途に利用できるメリットがあります。
一方、高額療養費制度についてですが、前述の通り同一世帯で、同じ月にいろいろな医療機関で支払った医療費の総額が自己負限度額を超えた場合、超えた医療費部分が払い戻される制度」になります。事前に手続きをすることで医療機関窓口での支払いを自己負担限度額までとすることも可能です。(限度額適用認定証の発行などが必要です。)
一例を挙げますと、70歳未満で年収約770万円~約1,160万円の場合、「167,400円 +(総医療費 - 558,000円)× 1%」が自己負担限度額となります。
特にがんなど高額な治療費がかかる場合において、高額療養費制度が利用できることは経済的負担を軽減できる点でとても大きいと言えます。
先進医療特約と公的医療保険の適用範囲
続いて、民間の医療保険に特約として付加できる先進医療特約と公的医療保険制度の適用範囲についても解説をしていきます。
「先進医療」とは、新しい医療技術や患者のニーズに対応するべく、厚生労働大臣の定める基準に合致した医療機関で行われる高度な医療技術等のことを言います。一般の保険診療との併用(混合診療)が認められた制度で、診療・検査等一般の保険診療と共通する部分は公的医療保険制度(保険診療)の対象になりますが、「先進医療にかかる費用(技術料)」は全額自己負担になります。代表的な先進医療の例では重粒子線治療や陽子線治療などがありますが、いずれも約300万円程度の費用がかかるとされています。
がんの治療については安全性が確認された標準治療(保険診療)から始めますが、標準治療が終了した場合などに、患者申出療養・評価療養(先進医療など)・自由診療等の治療を選択することがあります。これらの治療費は自己負担が高額になるケースが多く、そうした治療に備えるため、あるいは治療を選択する上でも先進医療特約の役割は大きいと言えます。
がん保険加入の判断基準
ここでは、がん保険加入の判断基準について解説をしていきたいと思います。
ライフステージと家族構成
ご家族の有無やライフステージによってがん保険の必要性は異なります。
特に子育て中のご両親や家族を支える立場にある方にとっては、がんなどの大きな疾病による収入減や経済的ダメージがそのご家族にダイレクトに影響を与えますので、しっかりとした備えをしておくことが重要になってきます。
経済状況と貯蓄額
十分な貯蓄がある場合にはがん保険は不要なのでは?と考える方もいらっしゃるかと思います。
確かに保険は収入減や経済的なダメージに備えることが最大の目的ですから、十分な貯蓄がある場合にはその貯蓄から治療費等を支払えば済むという意味では「がん保険はいらない」とお考えになることは間違いではないとも言えます。
しかし、どのような治療をするのかによってその治療費は大きく異なりますし、どの程度の治療期間が必要かもわからない状況ですから、「備え」という意味では適切な保険に加入しておくことはとても重要になってきます。
どのような状況でも「転ばぬ先の杖」としての保険に加入している安心はとても大きいと言えます。
職業と収入形態
職業によって大きな疾病にり患した際の経済的影響は異なります。例えば、自営業やフリーランスの方は長期の入院やその後の治療により仕事が出来ない状況が続いた場合、収入減少につながる可能性も少なくありません。
ご自身の職業や収入形態によってはがんなどの大きな疾病による収入減に備える必要性は高いと言えます。
まとめ
「がん保険は本当にいるのか?いらないのか?」というテーマで解説をいたしましたがいかがでしたでしょうか?
多くの方が、「自分はがんにならない」という意識があると思います。
しかし、がんはとても身近な問題でもあり、もはや国民病とも言われ、一部では発生率50%以上(一生のうちに二人に一人が発症)というデータもあります。そしてそのり患率は年齢を重ねるごとに高くなっていきます。
加えて、り患する部位などによって治療方法や治療期間、そして治療費用も様々・・・。
まずは、「がん」は他人事ではなく「自分事」と捉え十分な備えをしておくことが大切です。
また、がんは早期発見・早期治療により5年相対生存率も高くなってきております。定期的な健康診断によるスクリーニングと日ごろからの健康意識、健康管理、そして備えとしての医療保険・がん保険の準備もとても大切になってきますので、ご家族の状況や生活習慣、経済的な問題など総合的に判断をしてがん保険加入を検討していくことが大切であると考えます。
参照:国立がん研究センター がん情報サービス「最新がん登録・統計」罹患データ(全国がん罹患データ推計値(2016~2020年))データに基づく)
https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html